<文化環境研究所 News> 第20号
2001.6.15発行

今号の話題では、 先日取材をしたオーストラリアのシドニー水族館について、 二回にわたって紹介いたします。

−お知らせ−


新刊図書の紹介
  『季刊 Relatio 2001年 VOL.9』
  『教室に博物館がやってきた』
  『再現・昭和30年代 団地2DKの暮らし』


『季刊 Relatio 2001年 VOL.9』
   特集:動物園のジレンマ
   定価2,000円(税別) 
   チクサン出版社 Tel.03-3590-9455
発行元が動物園の存在にはどちらかと言うと否定的なようで、 タイトルや編集方針にも強く反映している気がしますが、 動物園の抱えている問題点が多方面から提示されています。
富山市ファミリーパークの山本茂行氏、 広島市安佐動物公園の大丸秀士氏のリポートは 動物園が様々な面からプレッシャーを受けつつも、 現場で前向きに受け止めようとしている姿勢が読み取れます。
動物園や水族館は、種の保存や生息環境の保全など、 国際的に共通した使命や役割があり、 自然保護や動物愛護団体等から常に注視されています。
時には圧力がかかり、困難が生じる反面、 社会にさらけ出している分、いち早く抜け出し、 日本の博物館の中で、リーダーシップを発揮してくれるかもしれません。

目次(抜粋)
〔特集〕動物園のジレンマ‐何を発信し、何を受けとめるか‐
◎それぞれの立場から 動物園は本当に必要か?
・自然保護の観点から/永戸豊野(WWFジャパン)
・アニマルライツ 動物福祉の観点から/野上ふさ子(地球生物会議)
・来園者の視点から/山崎恵子(Relatio編集委員)
◎日本の動物園の現状と課題/山本茂行(富山市ファミリーパーク)
◎動物園の新たな取り組み
・リアリティーのある自然環境を再現する注目の展示手法
・飼育動物の環境を豊にする「環境エンリッチメント」とは?
・学校教育と博物館・動物園のこれから
・教育施設としての役割
・種の保存、自然保護施設としてのアプローチ
◎日本の動物園のこれから‐動物園がめざすべきもの‐

[関連URL] http://www.mgp.co.jp/

『教室に博物館がやってきた』
   定価1,800円(税別)
   高陵社書店 Tel.03-3292-7408
サブタイトルが、 「社会教育施設と学校をテレビ会議で結んだ遠隔授業の試み」です。
平成10〜12年度にかけ、 博物館と学校を結んで実施した遠隔授業の実証実験に関する報告で、 参加した学校の先生8人と、伊丹市昆虫館・太宰府市文化ふれあい館・ 兵庫県立人と自然の博物館・マリンワールド海の中道 からの報告で構成されています。
博物館が遠隔授業の場として相応しいかどうかは別として、 コスト的な問題も含め、 どんな場面で遠隔授業が最も効果を発揮するのか、 個人的にも興味のあるテーマです。

目次(抜粋)
第1章 遠隔授業の現状と課題
第2章 学校から見た遠隔授業の魅力
1.はじめての遠隔授業
2.遠隔授業を取り入れたカリキュラムの魅力
第3章 社会教育施設から見た遠隔授業の魅力
1.伊丹市昆虫館での遠隔授業
2.太宰府市「文化ふれあい館」での遠隔授業
3.兵庫県立「人と自然の博物館」での遠隔授業
4.マリンワールド海の中道での遠隔授業
第4章 今までの活動と今後の遠隔授業について

[関連URL] http://www.koryosha.co.jp/

『再現・昭和30年代 団地2DKの暮らし』青木俊也
   定価1,500円(税別)
   河出書房新社 Tel.03-3404-1201
昨年の10月、松戸市立博物館(千葉県)で実施された企画展 「企画展戦後松戸の生活革新」の延長線上にある本です。
企画展は、昭和20年代後半から30年代にかけて、 松戸市域の急激な生活の変貌に焦点をあて展示構成されていました。
その時、資料として活用した、 当時、常盤平団地住んでいた家族の1万カットの写真が この本でも中心に据えられています。

目次(抜粋)
第1章 団地・2DKの誕生
第2章 ある家族の団地生活
第3章 昭和30年代の生活革新
第4章 2DK生活再現展示の思考

[関連URL] http://www.kawade.co.jp/




文化環境研究所ジャーナルが更新されました
文化環境研究所ジャーナルが6月5日に更新されました。 よろしければご一読ください。
(次回は7月5日更新の予定です。)
http://db.bunkanken.com/journal/journal.php3
[掲載記事]
1.マダガスカル海外調査記 爬虫類学者が見たマダガスカル
 長谷川雅美 (はせがわまさみ)
アフリカ大陸の南東のインド洋上に浮かぶ島国マダガスカル。
ここでも近年、野生生物の生息環境破壊が進行している。
「保護と開発」その接点を探るためには調査はもちろん、
その結果を地元に還元する仕組みが必要だ。

2. アーツがまちの襞に触れるとき NPO法人アーツワークスがめざすこと
 小暮宣雄(こぐれのぶお)
新鮮なアーティストをサポートし、企業・行政・NPOの区別なく、
全国様々な「まち」と連携を図る目的で設立されたNPO法人アーツワークス。
芸術と社会を結ぶ役割を担うNPO法人はまだ日本では少数だという。

3.外部脳の夢と現実 ユビキタスネットワークの時代
 鎌田裕一郎 (かまたゆういちろう)
ノートパソコン、携帯端末PDA、携帯電話と、
情報機器はモバイル全盛の時代。しかしもうすぐ、
何にも持ち歩かなくて情報にアクセスできる時代がやってくる。
ユビキタスネットワーク時代の到来だ。

4.散歩から見たイタリア流社交術
 大橋由紀 (おおはしゆき)
イタリアの中小さまざまな町では、
土曜日の午睡の終わる頃から夜がふけるまで、
同じ路を何回も行ったり来たりする「散歩」が繰り広げられるという。
一体何の目的で?

5.博物館の利用者についての調査 マーケティングと教育の二つの視点から
 竹内有理 (たけうちゆり)
最近、博物館評価や利用者調査に対する関心が非常に高い。
「なぜ調査をするのか」は、調査手法と同様、重要な要素と言える。
「マーケティング」と「教育」の視点から、
博物館の利用者についての調査を考察する。



法政大学文学部博物館学講座シンポジウム
前期旧石器問題とその背景を考える
シンポジウムでは、捏造事件発生の問題の所在を 考古学界に限定せず、
それらを取り巻く社会状況に広げて、考古学・博物館学・
文化財保護行政・生涯学習の立場から考えるそうです。

パネリスト:
日本の旧石器と前期旧石器問題/小田静夫(東京都教育庁文化課)
ヨーロッパの前期旧石器と研究教育体制/小野昭(東京都立大学)
前期旧石器問題をめぐる社会的状況/小林達雄(國學院大学)
文化財保護行政と博物館の諸問題/段木一行(法政大学)
権威主義的「学習」観からの解放と生涯学習の役割/笹川孝(法政大学)
司会:金山喜昭(法政大学非常勤講師)

日時:2001年7月8日(日) 13:00〜16:30
会場:法政大学ボアソナードタワー26Fスカイホール
定員:250名(参加費無料)
問合せ:法政大学資格課程準備室(担当:増山一成)
TEL.03-3264-4360 FAX.03-3264-9840
E-mail mashiyam@i.housei.ac.jp

−今号の話題−


様々な面からアクセスが自由な「シドニー水族館」(前編)

年間100万人以上をコンスタントに集客しているシドニー水族館。
運営の視点は、娯楽を目的とした「観光」に重きを置いています。
多くの人々に足を運んでもらうためのハードの整備はもちろん、
様々な方法でアクセスしやすい環境を整えています。
前編では、「交通の利便性」「開館時間と入場料の設定」
「海外からのビジターへの配慮」
後編では、「身体的にハンディをもった人たちへの配慮」
「学校団体に向けた対応」といった視点から、
シドニー水族館の取り組み例を紹介したいと思います。



◇使命と特色
シドニー水族館の使命と特色を簡単に紹介すると、
オーストラリアの海洋・河川における様々な水生生物を
国内外の人々に紹介する目的で、1988年7月に開館。
「動物を介した楽しい経験を提供」
「展示を通して教育や環境教育に資する」
「生物とその生息環境の保護・保全のメッセージを発信する」
ことを水族館の使命としており、
現在、オーストラリア証券取引場、上場企業の
Sydney Aquarium Limitedが運営しています。

他の水族館と比較してユニークな点は、
(1)オーストラリアに生息する多様な水生生物が豊富に存在する。
(2)水生生物をただ水槽に展示するのではなく、
本来の自然環境を再現するよう最大限努力している。
(3)新しい素材や手法を使った展示を試みている。
(4)動物を清潔に保つため、
清掃を生態にしている生物を一緒に水槽に入れ、
全体的な水質のバランスを保っている点 などがあげられます。
このような特色は、近年他館でも採り入れられつつありますが、
シドニー水族館はその先駆者としてリーダーシップを発揮しています。

◇高い交通の利便性
シドニー水族館では、
他の水族館や動物園を自分たちの競合と考えていないようです。
それよりもハーバーブリッジ等、
多くの観光客を集めるスポットに脅威を感じています。

集客の最大要因のひとつである交通機関の利便性には、
シドニー水族館は恵まれています。
シドニーの中心街であるマーケットストリートより徒歩で10分程度、
またモノレール・鉄道・フェリーやバスなど、
様々な交通機関を使い歩いてアクセスできる場所に立地しています。

オリンピックの影響もあり、2000年度の入館者数は
前年より101,000人を上回る1,201,000人が来場しました。

◇利用しやすい開館時間と入場料の設定
シドニー水族館は、
朝の9:00から夜22:00まで年中無休で開館しています。
1日あたりの営業時間は13時間、365日営業なので、
年間の総営業時間数は4,745時間にも及びます。
日中は観光客や家族連れ、学校団体の利用が多く、
夜間は水族館近隣のエリアに、 沢山のバーやカフェなどが存在するため、
食事を楽しんだ、もしくはこれからといった シドニー在住者やカップルが水族館へ足を運ぶことも多いようです。

交通の利便性と同じくらい、 集客に重要な要素して考えられるのは、入館料の設定です。
現在、入場料は大人19.5AUD(約1,210円)、
小人8.5AUD(530円)で設定されていますが、
オーストラリアに在住している知人に入館料の印象を質問したところ、
「安く感じる」との回答がありました。
国内の物価から勘案しても、割安感があるようです。
正規料金以外にも、家族向けや各種団体に対応した割引があり、 集客に一役買っています。

◇海外からのビジターへの配慮
1,201,000人の入場者の内、
半数以上にあたる667,000人が海外から訪れています。
そのため展示はもちろん、施設運営に関して、
外国からのビジターを意識した運営を行っています。
例えば英語の他、
中国語・フランス語・ドイツ語・日本語・韓国語・スペイン語
対応の音声ガイドシステムが導入されていますし、
各国語によるガイドブックも販売されているなど、
英語がわからなくても、
有料ですが、最低限理解できるツールがいくつか用意されています。
また、ギフトショップでは沢山の種類の水族館ロゴが入った商品や
質の高いオーストラリア産の土産品購入ができる場も提供しています。

このように利便性の高い立地に加え、特定の来場者だけを想定せず
あらゆる層から指示される施設づくりを目指していることがわかります。
次号では、「身体的にハンディをもった人たちへの配慮」
「学校団体に向けた対応」について紹介いたします。


皆さんの「おススメ」情報がありましたらご紹介ください。
info@bunkanken.comまでお送り下さい。
ご紹介した行事等のお問い合わせは各連絡先まで、直接お願いいたします。