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 博物館は視覚だけではなく、聴覚の情報も伝わっています。学芸員の資格を取る ために視聴覚教育メディア論があるように、視覚だけではなくて聴覚も扱っている はずです。視覚に対する情報保障はもちろんのこと、聴覚に対する情報保障もしな ければいけないにも関わらず、そういった研究がまったくなされておりません。今 回こうした論文を書いたのはそういう理由からであり、まずは四つの障壁に分けて 考えていくべきことをご理解いただきたいと思います。
 では四つの障壁についてご説明申し上げます。第一に文化・情報面の障壁とは、 触ってみる展示、点字解説のあり方、案内図や案内板のあり方、点字ブロックをど う設置して情報発信するのか、などという点です。博物館はまず、資料の情報を発 信しなければいけません。私も触る展示などいろいろなことを考えるわけですけれ ども、よく五感という言い方がされますが、人間の感覚はどれぐらいあるのか。人 によっていろいろな言い方がされるわけですが、私は人間の感覚を視覚・聴覚・皮 膚感覚・味覚・嗅覚・運動感覚・平衡感覚・内臓感覚の八つに分ける方法を採用し ており、いわゆる五感の中で触覚と言われているものは皮膚感覚に含まれます。こ れは触覚・温覚・冷覚・圧覚・痛覚です。つまり、全部で八種類、十二感覚に分か れます。こうした感覚を応用することでユニバーサルでいうところの、あらゆる人 のために対応するヒントが生まれるのではないか、そういう研究をこれからしてい くべきではないでしょうか。ハンズ・オンという考え方も含めて、やっていくべき だと思います。
 ただ、何でもかんでも触覚の応用で済むわけではありません。確かにモノに触っ てもらうことは大事なことでありますが、すべての資料を触れるわけではありませ ん。先日、東京国立博物館で「日本国宝展」をやっておりましたが、残念ながら国 宝を触ることはできないわけです。触れるものと触れないものをどうやって使い分 けるのか。これはなかなか一口では言えませんが、博物館におけるそうした展示施工のあり方の研究がこれから必要になると思います。
 では、すべて触るといった知覚展示ができれば良いのか。実際にはなかなかそう はいかないわけですから、それに代用できる方法も考えなければいけないと思いま す。「展示はガラスケースの中に入っていて触れないのだから、そこに『視覚しょ うがい者』を連れていってもしょうがないのだ。説明札はどこで読んでも同じだろ う」という言い方がよくされるのですが、果たしてそうだろうかと私は疑問に思い ます。
 昭和49年に「モナリザ」展がありました。日本の特別展史上、最も多い入場者数 を記録しており、150万人が入りました。一日に3万人が押し掛けたため、一人3秒ぐ らいしか見れなかったものですから、「3秒の微笑み」とまで言われました。しか しそれでも150万人が訪れたのは本物の「モナリザ」が来たからです。本当に鑑賞 したいならば、美術全集に載っている「モナリザ」を事細かに見た方が良いのです が、そこを訪れた人は鑑賞のためではなく、本物にいかに近づくのかという動機で 来ているのです。
 この例と比較することが適切かどうかはわかりませんが、博物館においてある実 物資料を間近にして、その資料に対して思いを馳せる経験則は意外と大事だと思う のです。資料がガラスケースに入っていても、触ることができる関連資料がその周 囲にいくつかあり、両方の資料の説明を何らかの形で受けることができるならば、 単に本からの知識だけではなく、何か感覚的に得るものがあるのではないでしょう か。


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