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| 博物館をめぐる評価のあり方のひとつとして、注目されはじめているのが展示評価である。後述するように、展示評価の種類や方法はさまざまであるが、共通しているのは、展示の効果を利用者からのフィードバックを得ながら検証していくところにある。近年、博物館の教育的役割が強調されるなか、従来にも増して博物館の展示やプログラムが重要視されるようになっており、各博物館で展示手法を工夫したり、ワークショップを実施するなどの取り組みが盛んになっている。文部省も、平成11年度から「親しむ博物館づくり事業」を行って、そうした事業に助成金を出すなど、だれもが楽しみながら学べる場所としての博物館への期待は大きい。しかし、こうした活動が活発に行われる一方で、一体利用者はそこから何を得て帰っているのか、また、利用者に何かを得て帰ってもらうためには、どのような展示やプログラムを行ったらよいのか、明確な答えは得られないままである。展示評価とは、展示の開発や実施に関して、直接利用者の声を聞くシステムで、展示開発者が抱えるこうした課題に解決の糸口を与えてくれるものといえる。まだ比較的新しい分野で、展示評価が早くから行われていたアメリカでも、現在のようなかたちで展示開発のプロセスに評価が組みこまれるようになったのは1970年代になってからである。最近では、日本にもその手法や事例が頻繁に紹介されるようになっており(註1)、日本でも評価を組み込んだ展示開発を実施しようとの試みも見られるようになっている。本稿では、アメリカを中心に行われている展示評価を展示開発のプロセスとともに簡単に紹介した後、日本での動向に触れ、その可能性を考えてみたいと思う。 |
| ■何のための評価か |
| 「評価」という言葉は、英語のEvaluation(エバリュエーション)の訳語である。「評価」というと、学校の成績評価を思い浮かべてしまうのだろうか、マイナスのイメージがつきまとうことも多いようである。「この展示は50点、不合格です」などと「評価」を下されてしまってはかなわない、といったところであろう。しかし、展示評価の目的は、合格、不合格の決定を下すことではなく、展示を少しでもよいものにすることにある。現状の展示、もしくは展示案が、利用者にどのように受けとめられているのかを検証してその効果を測定し、改善すべき点を考える材料とするのである。また、展示評価を行うことが、利用者の嗜好に博物館が迎合することにつながるのではないかと懸念する向きもあるようだが、展示評価は決して単なる人気投票ではない。人気がなく利用されていない展示があった場合も、単にその展示をやめてしまうのではなく、それを改善していくための努力をすることが重要である。展示が利用されていないことにも気づかず、または、展示が大きな誤解の原因となっていることにも気づかず、自分たちの思ったとおりに利用されていると信じ込んでしまっていることが問題なのである。展示は、ひいては博物館は誰のためにあるのかを考えれば、展示がどのように利用され、どのような効果をもたらしているのかを検証し、その効果を高める努力をすることは、博物館として当然のことといえよう。米国博物館協会は、1992年に『Excellence
and Equity』という報告書を発行して、博物館の教育的、公共的側面を強調したが、その中でも、展示評価は利用者の博物館体験の質を高めるために重要なものであり、評価を行う過程は、博物館や展示がよりよいものへと変っていくための原動力になると記している。
つまり、展示評価とは、展示を介した博物館と利用者のコミュニケーションを成立させるための一連の過程をさす。したがって、展示評価を行うには、博物館が展示を通じて何を伝えたいのか、博物館側が明確な目的をもつことが前提となる。評価の結果、展示の目的が達成されていないことが分かれば、目的達成に必要な対策を講じるわけで、最初から目的がなければ評価のしようがない。確かに、アメリカの展示開発の例をみてみると、展示企画の最初に、展示の目的(GoalとObjective)、そして、利用者にもってかえってもらいたいメッセージ(Take-home
message)を明確に定めている場合が多い。 Goal(目標)とは、展示が何を目指すのかを一般的に述べたもので、多くの場合、「利用者の〜に対する多様な見方を理解し、さらなる探求心を促進する」のようなかたちで記される。それに対してobjective(ねらい)とは、展示を利用しながら、もしくは、利用した後に、利用者が行うことや考えることを具体的に示したもので、その達成度が測定できるかたちで記されている。Objectiveの具体例を挙げると、例えば微生物に関する展示について、「利用者は、微生物があらゆるところに存在し、生きていること、顕微鏡を使えば肉眼で見えることを理解する」「利用者は展示を見終わったあとに、微生物が果たす役割について、ポジティブな感情をもつ」「利用者は顕微鏡をつかって、微生物を見つけられる」などである(註2)。展示評価の際は、こうしたObjectiveに照らし合わせて、達成度を評価することになる。この例にも見られるように、Objectiveは利用者の認識面、感情面、行動面について設定することができ、達成度が「測定可能」であることが特徴である。 Take-home messageとは、展示を見終わった利用者が、もし出口で展示を見て感じたことを尋ねられたら、博物館としてはこんなことを言ってもらいたい、というものを文章化したものである。例えば、石油流出に関する展示に関して、展示開発チームは次の8つのメッセージをまとめたという。「アラスカは自然の宝庫で守るべきだ」「それは大災害だった」「それによって人々の暮らしが変わってしまった」「すべてをもとに戻すことはできない」「一体どうしてこんなことがおこったのだろう」「それはまだ終っていない」「我々は忘れてはならない教訓を得たし、まだ学びつつある」「行動をおこすことが重要だ。自分には何ができるだろうか」の8つである(註3)。疑問のかたちで示されたものもあり、実際に利用者が口にするような言葉で記されているのが特徴といえる。 展示開発に関わる者たちは、こうすれば伝わるだろう、こうすれば楽しいだろう、と利用者のことを考えながら開発をすすめてはいるものの、実のところは自分たちの思い込みや経験値に頼っているだけで、そこにしっかりとした根拠はないことも多い。評価とは、現状の展示や展示案を、実際に利用者の反応に照らし合わせることで、開発に関わる意思決定に有益な情報を提供してくれるものである。後述するように、展示評価は出来あがった展示について行うだけではなく、展示開発の初期の段階から行われる。利用者を展示開発のパートナーとして位置付け、それを展示開発にフィードバックしていくことが展示評価の目的である。 |
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