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| ■展示評価の実施者.....エバリュエーター(Evaluator) |
| 利用者の声をひろいあげて、展示開発に有益なデータを提供する専門家がエバリュエーターである。展示の開発には、キュレーター、デザイナー、エデュケーターなど、立場や役割の異なる人々がチームを組んであたるのが一般的になってきているが、エバリュエーターとは、こうした展示開発チームと、利用者の間を結ぶ役割を果たす者である。展示開発チームが利用者について知りたいと思っていることを聞き出して整理し、適切な調査方法を選び、調査を行う。そして、データの分析をし、展示開発チームに提示、提言する。これがエバリュエーターの役割である。アメリカでは、博物館の中に評価を専門に行う部署をもっていて、館内職員としてエバリュエーターを抱えているところもあるが、大部分の博物館は、そこまで十分な職員を置いてはいない。その場合は、特定の博物館に属せずに独立したエバリュエーターとして活動している者と、プロジェクト毎に契約を交わすことが多い。資金的にエバリュエーターを雇う余裕がない博物館では、エバリュエーターに評価のための研修と調査の監督を依頼し、展示開発チームのメンバーなど、自館のスタッフで一連の評価を行うこともある。ところで、展示開発チームの人間が評価の実務を行う場合、館内の事情や展示の内容について精通しているというメリットがある反面、自身が展示開発に関わっているがために、展示に対する思い入れが強すぎて、データの解釈などに客観性を欠く恐れがあるとも言われている。逆に独立のエバリュエーターの場合だと、展示開発に直接関わっていない分、客観的に状況を判断できる一方で、その博物館の事情や展示内容に関する情報が不足していることもあり、どちらも一長一短である。 |
| ■展示評価の概要 |
| 現在、欧米で実施されている展示評価の方法論は、1960年代以降に確立されたものである。まだ、新しい分野でもあり、研究者間で方法論や用語の統一がされているとはいいがたいが、展示の開発の段階に応じて4種類の展示評価が提唱されている。ここでは、その4種類の展示評価を、その発生の順に概観する。当初は、出来あがった展示の効果を測定するのを主目的として実施されていた展示評価であるが、その後、より効果的な展示を開発するために、次第に展示の開発過程に組み込まれるようになってきているのが分かる。それぞれの方法が生まれてきた背景もできるだけ触れたいと思うが、主に展示開発の過程との関係で紹介する。展示評価の歴史的諸相については他に詳しいので、そちらを参照されたい(註4)。 |
| 1. | Summative Evaluation (総括評価) |
| 展示を制作し、展示室への設置が終了した後に行われる評価で、展示の効果がいかほどであったかを測定するために、展示がどのように利用されたかを調査する。入館者数も、もちろん重要な指標ではあるが、利用者が展示室内でどのような行動をとったか、そこから何を得、感じているのか、などを観察法、質問紙法、面接法などによって調査する。後述する他の種類の評価と比べると、このSummative
evaluationは最も総括的なもので、より多くのサンプル数で綿密な調査を必要とする。調査の結果は、同様の展示を今後も続けるか、それとも改善の必要があるかどうかを判断する材料になる。 このSummative evaluationや後述するFormative evaluationなど、現在展示評価で用いられていることばは、博物館に固有のものではなく、もともと、教育プログラムの評価に関して用いられたものである。現在提唱されている4種類の展示評価のなかでは、このSummative evaluationが最も古くから行われているが、それも、教育界で評価に対する意識や実践の広まりを反映してはじまったという(註5)。アメリカの教育界では、1965年に成立したElementary and Secondary Education Actが、連邦政府の助成を受けた教育プログラムに対する評価を義務づけるようになっていたが、その影響を受けて、博物館の展示開発に助成金を出している財団でも、助成を受けた展示の評価を義務づけるようになったのである。展示資金を獲得するためのプロポーザルでは、博物館がどのような利用者層に対して、何を達成するつもりであるのか、その目的を記述するのが常であるが、それに加えて、その目的の達成度を測るための評価の計画も明記することが求められるようになった。こうして、博物館界においても展示評価の実践が広まるとともに、評価に対する意識が高まっていったのである。 評価をするにあたって、利用者の行動を把握するのは、比較的簡単である。追跡や定点観測などによって、利用者の動線や利用時間を調査して、展示のなかで利用されていない部分や、博物館の意図とは異なる利用のされ方をしている部分を明確にすることができるからである。それに対して、利用者が展示から何を得ているのかについて測るのはむずかしい。展示の利用時間や利用方法など、目にみえる行動から利用者の学びを推測することはできるし、確かに、利用者の行動と利用者の学びの間に何らかの関連は認められる(註6)。しかし、それは、あくまでも推測であって、利用者の頭のなかで起こっていることは、行動からだけでは理解できない。そこで、利用者が展示から得たことを測るためには、利用者へのインタビューやアンケートを実施する。最も一般的なのは、展示を見終わった利用者に対して、展示のなかで一番印象に残っていることを尋ねるという方法である。展示によって伝えようとしていることや考え方に利用者が言及するかどうかで、展示の意図が達成されたかどうかを測ることになる。また、展示を見る前の利用者の状態と、見た後の状態をテストして比べることによって(同じ人物を入口と出口でテストすることはない)、展示が利用者に与えた影響を測定することも行われている。出口だけでのインタビューが、展示のメッセージが「伝わったかどうか」に焦点をあてているのに比べ、入り口と出口での結果を比較する方法は、展示によって利用者がどう「変化」したかに重点があるといえるだろう。「出来なかったことが出来る」ということが展示の効果として重要視されている。ところで、筆者は、展示の効果は、「新しいことができる」ことだけではないと考えている。既に知っていたことを再確認したり、思い出したり、ということも博物館での学びの重要な部分であると思うのだ。展示によって利用者にどんな「変化」が起こったかは、展示が利用者に与えたインパクトを明確に示すかもしれない。しかし、それだけを展示の効果として評価することは、博物館という場にはふさわしくないように感じている。その点、出口調査で、展示で一番印象に残った点を聞き、それが博物館側の意図とあっているか、もしくは、どれほど違っているかを測る方が、博物館の実情に即している気がするのだがいかがなものだろうか。 利用者へのインタビューについてもう少し述べると、前述の方法は両方とも、展示が与える短期的な影響について測るものであって、長期的な影響については測れないことを留意しておく必要がある。博物館の展示が利用者に与える影響とは何かを考えたとき、それは必ずしも短期的なものだけとは限らない。博物館から帰った後、あるいは、何年も経った後で思い出すこともあるだろうし、博物館での経験が、その人の後の経験に何かしらの影響を与えることもあろう。展示評価を行う際は、展示が利用者に与えるインパクトには、短期的なものと長期的なものがあることを認識した上で、評価によって分かることの限界も理解しておく必要があると考える。 |
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