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■利用者を隔てている障壁は何か

 日本でもバリアフリーという言葉がさかんに言われるようになって久しい。最近では障害者に対するバリアという意味にとどまらず、すべての人が利用しやすいという意味で、バリアフリーの概念をさらに広げてユニバーサルデザインという概念も導入されるようになった。いずれも建築用語として使われているものだが、博物館にも影響を与えている。博物館の中にそれが入ったとき、建築というハード面だけでなく、博物館の中の展示やサービスなどのソフト面にもユニバーサルデザインの概念が及びはじめている。(註5)
 では、具体的に博物館が考えなくてはならない利用者との間ろうか。それは個々の博物館で異なるので、先に述べたような非利用者調査を行い、明らかにすることが有効であるが、すべての人に開かれた施設をめざすという点においては、ある程度共通の検討課題を挙げることができる。
 表1は、イギリスのMGC(博物館美術館委員会)が1998年にまとめたBuilding Bridges(橋を架ける)という報告書に掲載されている「アクセスへの障壁」の一覧である(Dodd, J. and Sandell, R.,1998)。この表によると8つのアクセスを取り上げている。身体的アクセス、感覚的アクセス、知的アクセス、経済的アクセス、感情・態度面でのアクセス、意思決定へのアクセス、情報へのアクセス、文化的アクセスである。
 身体的アクセスと感覚的アクセスは、身障者やお年寄りなど身体的にハンディキャップを持った人たちへの対応についてである。スロープや手すり、椅子の設置など建物や設備面での対応と、触れる展示物の設置や音声ガイド、字幕付き映像解説などの配備を挙げている。前者の施設・設備については日本でも改善、整備が進められつつあるが、後者の展示についてはまだ十分とはいえないだろう。 3つめの知的アクセスというのは、大人だけでなく子どもにも理解できるかどうか、また、学習障害(LD)のある人でも博物館のサービスを享受することができるかどうかを検討事項として挙げている。それへの対策としては、展示をつくる過程で様々な層の人々の理解度を博物館が知っておくこと、展示をつくる過程でそれまで博物館から阻害されてきた人(博物館を利用しなかった人)たちの意見を聞き、展示制作に参画してもらうことが重要であると指摘している。
 経済的アクセスとは、入場料金やショップ、レストランなどで扱っている商品の価格についてである。高額であればあるほど、低所得者や年金生活者は利用しづらくなる。その対応策として、無料入館日の設定、移動博物館などのアウトリーチ活動の実施、無料送迎バスの運行などを挙げている。 感情・態度面でのアクセスというのは、来館者に対する博物館のスタッフの接し方についてである。人についての印象は展示についての印象より記憶に強く焼きつくことが多い。博物館のスタッフ(どういう身分であれ、利用者から見れば、博物館で働いている人は皆同じスタッフだと思う)が不親切だったり威圧的だったりすると、それだけで博物館の印象は悪くなり、二度と来てくれないどころか、そのことを他の人に伝えて悪い評判が広まることにもなりかねない。このような障害をつくらないようにするために、接遇についてスタッフを研修すること、初めて博物館に来た人にも親しんでもらえるようなイベントや活動を行うことなどを対応策として挙げている。
 次は意思決定へのアクセスについてである。展示や事業の企画を館内のスタッフだけで決めてしまうのではなく、外部の関係者や新しく開拓しようとする層の人々の意見を聞くために、協働して事業を企画したり、諮問組織を設けて意見を聴取するしくみをつくることを対処法として提案している。
 情報へのアクセスは、博物館が発信する様々な情報がきちんと届いているかどうかを問題にしている。博物館に来ないのは、情報が届いていないからという理由も考えられる。来てほしい人たちに情報が届くような情報伝達のためのネットワークと新たな伝達手段を考えることを提案している。また、広報用の媒体も活字を大きくしたり、音声、点字、外国語による広報など、様々なニーズに合わせた個別の媒体をつくることを提案している。
 最後に文化的アクセスにおける障壁を挙げている。これは、特にマイノリティーにとっての障壁という意味あいが強い。展示テーマや内容、資料の展示のしかたなどが、マイノリティーの人々の経験を反映しているかどうか、そしてそれが受け入れられているかを検討し、そうでなかった場合は資料の収集方針を見なおし、新しい解釈による展示に修正するよう提案している。例えば、同じ資料でも宗主国の側から見たのと被植民地の人の立場から見たのとでは、解釈のしかたが異なる場合が多く、そういった解釈の再検討を求めている。資料や展示だけでなく、博物館が行うその他の活動についても、異なる文化的背景を持つ人が興味を持てるような活動を提供するよう提案している。
 利用者層を広げ、これまで博物館に来なかった人に来てもらうには、現在博物館が抱えている障壁が何であるかを認識し、それを除去していく必要があることはすでに述べた通りである。上に挙げた8つのアクセスは、博物館の広い意味でのバリアフリー化を考える一つの目安として日本の博物館でも適用できるのではないだろうか。

表1 アクセスへの障壁
アクセスの種類  検討事項 対応策
身体的アクセス ・博物館の建物に物理的障害はないか。 ・スロープ、手すり、椅子の設置
感覚的アクセス ・展示やイベント、施設設備は聴覚、視覚障害者に
も利用可能か。
・触れる展示物を置く。
・音声ガイド、字幕付き映像装置など多様な解説手段を用いる。
知的アクセス ・展示は十分な知識を持っていない人を排除していないか。
・学習障害(LD)を持っている人もサービスを利用できるか。
・展示制作の過程で新しい観客層に意見聴取し、参画してもらう。
・展示開発の際に様々な観客層の理解レベルを検証する。
経済的アクセス ・入場料金は低所得者層を退けていないか。     
・ショップや喫茶で販売しているものは家族連れで ・博物館が地域に出て行く。 も買うことができるか。
・入場無料の日を設け、それを広く宣伝する。
・博物館が地域に出て行く。
・無料送迎サービスを提供する。
感情的、態度面でのアクセス ・初めての来館者を歓迎するような雰囲気を醸し出しているか。
・様々な人々に対してスタッフは心を開いた態度でいるか。
・スタッフを研修する。
・新しい観客が安心できるような特別イベントや活動を実施する。
意思決定へのアクセス ・潜在的な新しい観客の意見を聞き、外部の関係者の意見を評価し取り入れているか。 ・観客と協働して事業を企画する。
・諮問組織を設ける。
情報へのアクセス ・広報宣伝は効果的に新しい観客に届いているか。 ・新たなマーケティングネットワークと伝達方法を開発する。
・大きな文字、音声、点字、外国語による広報宣伝用の発行物をつくる。
文化的アクセス ・収蔵品、展示、イベントはターゲット層の興味関心や経験を反映しているか。 ・新しい収集方針をつくる。
・適切な解釈に基づいて展示を修正する。


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