地域博物館における地域学の課題と展望
文化環境研究所代表 高橋信裕
〜『文環研レポート』17号より〜
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 近年、地域を冠にした「学」の台頭が著しい。なかでも博物館建設計画のなかに、この「学」を取りこみ、育成・発展させて行こうとする試みが目立つ。山梨県立博物館(仮称)での「山梨学」、萩市新博物館(仮称)での「萩学」、長崎県諏訪ノ森歴史文化博物館(仮称)での「長崎学」など、これらのどれもが博物館活動の大きな柱として位置付けられている。しかし、こうした地域学への熱い眼差しや動きは、目新しいものではない。古くは1975年(昭和50年)にオープンした「秋田県立博物館」が「秋田学」を掲げ、博物館と地域学を結びつけた新しい地域博物館のあり方として注目された。そこでの「秋田学」は、「郷土学」として、また「風土学」として定義され、秋田固有の人文諸科学や自然諸科学などの諸学を秋田という風土(郷土)の視点から総(綜)合化していこうとする横断的な「学」の確立であった。(注1)

それは、基礎的な「学」であるが故に、その基盤、底流に、高度に専門分化した縦割りジャンルの「学」には望むことの出来ないアマチュアリズムの参入が期待でき、一般市民に博物館の門戸を広げることにもつながり、また同時に地域コミュニティ活性化の可能性をもうかがわせる、という市民社会における博物館の理想的なあり方を予見させるものであった。(注2)

■「地域学」の現在と周辺

  一方、近年の地方分権化のうねりは、いきおい地方に自立を求めることになり、当地の活性化に地域学を取りこみ、活用していこうとする動きが各地に見られるようになってきている。地域の個性化、アイデンティティの確立が、これまで以上に強く求められ、勢いを増しているのである。また、行政の広域化志向を反映して、地域学の範囲も広範なものが見られ、愛知県春日井市では、昨年(2000年)より「東海学」を立ち上げ、それをメインテーマに同市の市民会館を会場に「春日井シンポジウム」(今年は2001年11月10日〜11日開催)を開催するなど、活発な討論や報告が展開されている。

 「秋田学」の膝元である鹿角市でも、市長自らの肝いりで、「鹿角学」が提唱され、“市民力”による市勢の挽回と再生が、地域経営の主要テーマとなっている。この10月23日には地元鹿角市で「鹿角学セミナー」が開催されるなど、「産、官、学、市民が手を携え、地域の優れた資源、能力を発見・発掘して新しい息吹を起こし、地域が生きる理念を考える」試みが軌道にのるかどうか、その行方が注目されている。(注3)

 地域学を地元ではなく、首都圏で展開しようとする動きも見られ、早稲田大学のオープンカレッジ寄付講座「土佐学」(10回講座)は、地元高知の自治体や早稲田出身者らからの援助、高知県下の企業広告により運営が賄われているもので、そのコーディネートは地元有志で結成された「早稲田大学オープンカレッジ土佐学実行委員会」が中心となり行なわれている。講座の目的は「この講座をきっかけにして、今後東京都下の各大学での土佐学講座開講をめざしたいと考えております。高知県の歴史人物、文化紹介と高知のタイムリーな話題を首都圏でアピールできるよい機会であり、この講座が首都圏から高知県への観光招致に貢献できると確信いたしております。」(「早稲田大学オープンカレッジ高知県総合講座・土佐学」パンフレットより)と記されているように、地域学を首都圏からの観光客誘致の有力な手法として位置付けている点が興味深い(注4)

 さらに最近では、地域学や郷土学に代わる「地元学」という名称で、新たな地域学が提唱され、地域づくりの有効な手法に加えられてきている。この「地元学」については『地域から変わる日本−地元学とは何か』(農文協「現代農業」2001年5月増刊号)としてまとめられ、報告されれいる。本書の編集主幹である甲斐良治氏は、この「地元学」を「地元に暮らす人(土)にとっては当たり前にあるもの(地域資源)やこと(生活・生産文化)の価値や意味を、外部の人(風)の視点も借りながら掘り起こし、地域づくりに生かすもの。従来の郷土史や民俗学、地域学と異なり、住民自身が当事者となって調べ、考え、ものや地域、生活をつくっていくことをめざす。成果が調査者に独占されたり、ただ何かを知って満足するだけの「もの知り学」には終わらない。」もの(毎日新聞2001年7月2日付コラム記事「発言席より)と定義づけている。(注5)

 地域文化研究の  一環として地元民 具の調査に携わっ てきている橋尾直 和氏(高知女子大 学文化部助教授) は、民具を方言呼 称によって記録・ 保存することで、 地域の生活語文化 の体系化を図って いる。氏によれば 「民具」は、「歴史・ 系統・伝播・製作 技術・用いる人々 の心性などを暗示 している。それだ けに「生活語文化」としての民具の記録・保存方法が確立されるべき」であり、地域住民との協働により「方言とともに次世代に語り継いでいくべきもの」であるとして、こうした調査・研究を有効に行なう方法として「カンカンミンガク」(館・官・民・学)という、一種の「地域学」を提唱している。「館」とは博物館や民俗資料館のことであり、「官」は行政を指し、「民」は地域住民、「学」は小・中・高等学校、大学などの教育機関を意味している。「これらが一体化して、地域文化の継承に取り組めば、文化発展の大きな力となる」という考え方である。(注6)

 「地元学」や「館官民学」を含め「地域学」への関心は、文化や自然という身の回りの現象や世界と同様に、そこに生活する自分自身さえも学習資源として対象化することにもなり、市民社会を担う地域の主体者としての意識形成に大きく寄与するものである。


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