地域博物館における地域学の課題と展望
文化環境研究所代表 高橋信裕
〜『文環研レポート』17号より〜
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■ 地元住民の元気が地域に自立と活性化をもたらす

 元気な市民がいる町ほど元気がいい。「地域学」は、市民一人ひとりの個性に磨きをかけ、潜在化していた能力に弾みをつけ、彼等自身が自信を備えることによって、自らが勇気づき、自己のなかに元気を取り戻す。地域コミュニティもまた、市民たちの成長と活気によって地域そのものも開かれ、魅力を増し、可能性を高めていく。市民にとって「地域学」は、自己の存在と向き合う恰好の機会であるとともに、自己の社会的存在証明にもつながり、その存在証明は、町おこし、町の活性化といった新たな地域環境の形成にも貢献する。この意味で、「地域学」は、それを学び、活用する人には同時代に生きるという、当事者意識を強く感じさせるとともに、地域社会をともに構成し形成していくという、社会性への目覚めにも大きな役割を果たす。

 地方分権と地方の自立が、21世紀社会の大きな課題の一つとして論議されている今日、また、地域の「均衡ある発展」から「個性ある発展」へ、「知恵と工夫の競争による活性化」へと新たな地域像への転換が、国を上げて行われようとしている現在、地域社会の文化インフラを支え、成長させる機関の一つが、博物館であろうとするならば「地域学」を地域再生の重要な「知の鉱脈」として意識し、地域博物館が中心となって、この「学」の可能性と発展をさらに強く推し進めることが求められる。

 最後に、「地域学」をこれまで述べてきた内容をもとに再定義すると、以下のようになろう。

  1. 人文科学や自然科学などの諸学を当該地域固有の風土の視点から総合化し横断的で学際的な取り組みを特色とする「学」である。
  2. 市民のイニシアティブのもとに地域の産、官、学が手を携え、地域の優れた資源、能力を発見・発掘し、当地域に新しい息吹を起こすことによって地域の活性化を目指す「学」であり、一方では“市民力”の醸成を支援する市民主体の「学」である。
  3. 地域おこしの有力な観光資源としての資質と可能性をもち、都市から当地域への集客を誘発し、地域固有の文化的アイデンティティとして機能する「学」である。
  4. 地元に暮らす人々にとっては当たり前にあるものやことの価値や意味を、外部の人の視点も借りながら掘り起こし、地域づくりに生かす「学」であるとともに、住民自身が当事者となって調べ、考え、ものや地域、生活をつくっていくことをめざす自学自習の「学」である。近年では「地元学」と呼ばれる。

■ 地域博物館に求められること

 「地域学」が、これからの地域社会を経済的にも、また精神的にも支える重要な資産として論議され、位置づけられるなかで、地域の伝統文化の保存・継承を担い、また同時に新たな文化の創造・発信の中枢機関として期待される地域博物館は、この「地域学」とどのように向き合うべきであろうか。いや、その前に「地域社会」や「地域住民」とどのように向き合うべきであろうか。組織的な問題、予算的な問題、職員の資質的な問題、運用の具体的方法(開放時間、設備管理、セキュリティ)など、課題は山積しているが、まず、市民社会への対し方を前向きにし、その連携協力のもとに社会性を高めていくことが先決ではなかろうか。ややもすると、市民や民間組織(特に企業)との関係構築に腰のひける行政の管理下にあって、地域の主体者として参画が期待できる地域住民や団体、法人との協働態勢を築くことが強く求められる現在、地域博物館の地域コミュニティへの取り組み姿勢を提言として列記しておく。
  • 地域住民に博物館機能(資料の燻蒸、保管、研究、発表、展示など)を開放し、大学における客員教授的な処遇制度(例えば市民学芸員制度等)を設ける。(期間は年度ごとに更新するなど期限は定める)(注10)
  • 市民学芸員は、出前講座や展示などで研究の成果を定期的に発表、公開し、地域社会へ貢献する。
  • 地域住民へ開放する部分は、市民組織(NPO等)の自主運営に委ねる。NPOは、高校生や大学生等の社会体験学習の場としての役割も果たす。
  • 博物館は、より多くの時間を地域住民との交流、対話にあて、人脈のネットワーク化を図るとともに、生涯学習資源及び文化観光資源としての「地域学」の構築と共有化に務める。
  • 博物館は、これまで以上に地域振興の視点をもち、蓄積してきた文化的資源を顕在化させ、実社会に活用する。例えば、商店街の空き店舗や空き教室、老人福祉施設の一部等をミニミュージアムや収蔵展示室、講座室、ワークショップルームとして再生させ、市民とともに活用、運営して行く。
  • 地域住民もまた、自己所有の文化資産やコレクション等を地域社会や行政等との協働のもとに一般公開し、交遊と交流学習の場づくりに務める。(注11)
  • パネルや展示台等の簡易な展示什器は、博物館内で製作できるよう展示工作用設備(パソコンやカラーレーザープリンター、イメージスキャナー、画像編集機、工作用具など)を装備し、市民の手作りによる展示ができるようにする。
  • 地域社会を構成する、もう一方の市民=企業市民との連携を強め、物心両面での運営協力体制(産業遺産の受入れや講師の相互派遣、工場見学、職員の無料招待、パーティ会場への博物館施設の貸出しなど)を恒常化させる。
  • 市民が所蔵する文化財の寄託保管用トランクルームギャラリーを設け、定期的に一般公開するとともに、資料の劣化と散逸を防ぐ。
  • 博物館は、市民のコレクション(標本・書画骨董など)の形成及び保存、補修、展示に関する知識と技能に対して支援センター的役割を担う。

 以上の内容や事柄については、既に一部の地域博物館で実践されてきており、わが国の地域博物館もまた、わが国固有の文化環境のなかで、地域社会の構成員である市民等と手を携えることで、着実にまた、確実に変わりつつある。


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