1.はじめに
平成13年春、独立行政法人土木研究所自然共生研究センター(岐阜県羽島郡川島町)のこれまでの研究成果を解説するパネル六枚が完成した。
この開発に際しては、今国内で注目を集めている展示評価を行いながら推進した。本稿はこの試みについて、その全体像がわかるよう留意しながら筆を進めるものである。加えて、評価・検証を経ることでパネルがどのように変化していったか、これは誌面の都合上一点だけしか紹介できないが、実際の事例を見ながら具体的に考察もする。研究者やデザイナーなど開発に携わった関係者が当初に思いこんでいた事柄は、調査を行うことで覆っていく場面が多くあった。そのような点も包み隠さず、詳らかにできればと思っている。
なお、一連の調査の項目設定や分析、パネル開発のアドバイスなど、大阪大学大学院の前迫孝憲教授をはじめ吉田健氏、松下孝司氏など多くの教育工学専攻の大学関係者のご協力をいただいた。また岐阜県羽島郡川島町立川島小学校の埴岡靖司教諭には、小学校における調査の調整から実施に至るまで多大なご尽力をいただいたことをここに記し、感謝の意を表す。
■自然共生研究センターの概要
河川の水質悪化や形状の単調化、流量の減少や一定化など、生態系への人為的な影響を軽減し、従来の自然環境を復元する取り組みが世界的な課題となっている。
わが国でも平成2年から建設省(当時)が、自然環境に配慮した河川事業「多自然型川づくり」を開始した。しかしこの種の事業が本格的に日本各地に展開するのは、改正された河川法(平成9年)の中で、河川のもつ自然環境、人との関わりにおける生活環境の整備と保全といった「環境の概念」を明確に位置づけたことが大きい(1)。
独立行政法人土木研究所の実験施設自然共生研究センター(以下、センター)は、「人」と「河川・湖沼」の共生の考え方や手法を明らかにする目的で、平成10年11月、岐阜県羽島郡川島町に整備された。木曽川の支川である新境川の水を導水した施設は、実験河川、実験池、および研究棟の三つで構成されている【写真1】。
世界最大規模の実験河川は長さ約800m、三本の屋外人工河川からなっている。一本は、ほぼ直線かつ平坦で単調な河川で、水際にコンクリートを設置した区間とそうでない区間が設けられている。他の二本は蛇行し、瀬(浅く、流れの速い場所)や淵(深く流れの遅い場所)、ワンド(川沿いに湾状にくぼんだ水たまり。)など様々な空間が施された五つのゾーン(次ページ参照)に分かれている。
実験河川の最上流には水が貯められ、最大で毎秒約4t、人工的な出水による洪水実験が可能であり、このような設備を用いながら、実際の自然環境では実現が難しい河川の定量的な比較実験できることが最大の特徴と言える。

【写真1】自然共生研究センター上空 |
河川環境の保全や復元に関して「空間」と「流量」が重要なファクターとして考えられている。実験河川ではこの二つのファクターを変化させながら、生物の生息状況とその関係性について独自の研究を進めている。
例えば、平坦で単調な区間に比べ、瀬や淵、水際に植物がある多様な区間の方が、魚の数も種類も多いことが定量的に確かめられた。また、川に植物が生い茂る夏の時期には実験河川上流の水位が上昇し、水量が維持されるため、水が下流へ到達する時間がかかることも確認された。
他にも川底に付着する藻類が出水により剥がれる度合いや、川自体が本来持っている水質浄化機能と出水との関係、河原特有の植物の育成と外来植物除去との関係など、これまでの研究により、いくつかの現象が実証され始めている。
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