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漢字で「冬眠鼠」と書き表されるヤマネは、広辞苑によると『齧歯目の小獣。体長約7センチメートル。尾長約5センチメートル。背は淡褐色で、その上に鮮やかな黒条が縦に走る。本州・四国・九州の特産で高地にすみ、雑食性。冬眠する。』と解説されています。およそ数百万年以上の昔から日本に住みつき、国内にいる動物の中でも、古くから存在する種類の一つと考えられており、国の天然記念物、レッドデータリストの準絶滅危惧種に指定されています。
このヤマネについて調査研究に携わっている湊秋作さんから、ヤマネをテーマにした特別展示を鳥取の氷ノ山(ひょうのせん)で開催するので協力して欲しいと依頼されたのは、平成15年3月のことでした。
特別展示の会場となる「響の森」は、鳥取市内から車で1時間。鳥取県の東部、兵庫県との県境に位置しています。
急勾配の山道を、車を喘がせながら登り、現地に近づいていくと、目の前にいろいろな樹木が植生する自然林が現れてきました。『いい森ですね。たくさんの植物と動物がいそうです。これならヤマネはすんでいるでしょう』と湊さんは、うれしそうに話します。
日本のヤマネは現在、遺伝的に6つの地理上のグループに分類されるものの、中国地方のヤマネだけは、どのグループに属しているのか、わかっていないそうです。ですから中国地方のヤマネを遺伝的に研究することは、日本のヤマネの進化を系統的に解明することにつながり、大きな意義があるのです。
中国地方のヤマネの研究が進んでいない現状から考えると、関心云々より、ヤマネそのものについて地域の人々が知らないのではないか? そうであれば、この場所でヤマネを題材にした展示の切り口はどうしたらよいのか? 現地に到着するまで、あれやこれや頭の中を行きかわせました。
打ち合わせ中にわかったことですが、響の森では開館してから二度ほど、ヤマネが保護された経緯があるそうです。特に平成11年11月に保護されたヤマネは、館内の床で寝ている状態で発見され、新聞などでも大きくとりあげられました。
『地域の人(響の森がある、つくよね周辺)は、ヤマネの存在を知っているのでしょうか?』と職員の方に質問してみました。記録としてまとまっていないものの、「ふとんの中でヤマネが冬眠していた」とか「服のポケットの中で寝ていた」などなど、複数の人からヤマネを発見した情報は聞くとのことでした。
それならば展示をつくる前に、まず地域とヤマネのかかわりについて調べてみましょうと、アンケートを実施することにしました。
アンケートは響の森がある、つくよね周辺の小中学校(鳥取県若桜町立若桜小学校・若桜小学校つくよね分校・池田小学校・若桜中学校)に通う児童生徒のみなさんに、自分のおとうさん・おかあさん・おじいちゃん・おばあちゃんからヤマネを発見したとか、保護したなど、ヤマネにかかわる思い出を聞き取り、調査用紙に記入してもらいました。
協力してくれた17人のうち15人が、家族の誰かがヤマネを発見したり、触れ合ったりした経験を持つことがわかりました。サンプル数としてはもちろん少ないと理解していますが、当初抱いていたイメージとは異なり、ヤマネついてはもちろん、身近に暮らしていることについて地域の人々が認識していることがわかりました。
『20年ほど前、山で杉の木を倒したとき、木の穴から5〜6匹出てきた(64歳男性)』
『造林作業中、休憩小屋に入ったらヤマネがいた(73歳男性)』
など、山での作業中に発見した思い出が多いのが特徴です。
その一方、山でつかまえたとか、「貴重な動物であること」「出会ったときの正しい行動」についての認識は希薄な印象を受けました。
実際、響の森に赴き、特別展示の会場に予定されているエントランスを見たとき、小さなヤマネを扱うにしては、かなり広いスペースに感じられました。
しかし、空間を埋めるための造作や造形物を新たに制作することは予算上難しく、響の森で所有している備品類、ヤマネミュージアムで持っている実物の利用を基本と考え、新規に制作するのはグラフィックなどの解説計画のみに限定しました。
9つの項目に分けた展示は、博物館のような体系的でアカデミックな展開というより、ヤマネの特徴的なトピックスから、興味を持ってもらい、正しい知識をひとつでも理解して帰ってもらう展開にしました。
[9つの項目]
1.あなたのそばで暮らすヤマネ
2.ねぼすけなヤマネ
3.リスやネズミの仲間のヤマネ
4.夜、活動するヤマネ
5.冬眠するヤマネ
6.栄養たっぷりのエサを選ぶヤマネ
7.豊かな森に暮らすヤマネ
8.ヤマネを知ることは守ること
9.ヤマネのためにあなたができること
解説の中心となるグラフィックパネルは、専門用語は極力つかわずに、小学生高学年でも理解できるようなやさしい言葉づかいと内容で、文字量も200〜300と短くし、適切に伝わる図や写真を厳選して構成しています。
この項目のうち、いくつか紹介いたします。
展示の導入にあたる「あなたのそばで暮らすヤマネ」では、ヤマネが身の回りで暮らしていることをまず認識してもらいたいと考え、響の森でヤマネを発見した方の思い出をグラフィックパネルの解説文に引用するなど、地域の人々が身近に感じられる視点を盛り込みました。
また、加えて
・生きた化石といわれるほど、大昔から日本に生息している。
・鳥取砂丘と同じく、国の天然記念物である。
・世の中からいなくなってしまう恐れのある野生生物を調べた「レッドデータリスト」では準絶滅危惧種に指定されている。
など、かわいいだけでなく、世界的に見ても貴重な文化財であることを、あわせて理解してもらえたら、この項目にかかわる意図は達成したと考えます。
グラフィックパネルの近くには、先立って実施したアンケート調査の結果を一覧表にしたものと、発見情報の位置がわかるよう地図上にプロットした発見マップ(来館者の新たな情報が追記できるよう、ポストイットや筆記具を用意)、その他、平成11年ヤマネが響の森で発見された当時の新聞記事や写真などファイルに整理し、閲覧できるよう整えました。
「不思議の国のアリス」の物語で、「ねむりネズミ」という名前で登場するヤマネ。
日本でも「冬眠鼠」と書くように、世界の国々では「ねぼすけ」を意味する呼び名をヤマネに対して親しみを持って付けていることを糸口に、世界のヤマネの話題について展開していきます。
世界には26種類のヤマネが生息していますが、そのうち湊さんが所有する写真から、5種類のヤマネについてグラフィックパネルで紹介します。同じヤマネといいながら、お世辞にもかわいいとはいえない、ふてぶてしいヤマネも仲間にいるのだとわかります。
展示台の上には、トランプ大のカードゲームが用意されています。カードの表面には世界のヤマネの呼び名が書かれており、裏をめくると、それがどの国のヤマネの呼び名で、名前の持つ意味を解説しています。カードを1枚1枚めくっていくと、ヤマネの世界的に共通したイメージが、「ねむる」とか「ねぼすけ」であることを改めて実感します。
ヤマネはリスやネズミと同じ齧歯目(げっしもく)です。しかしヤマネを知らない人にはネズミと見分けがつかず、捕まえられてしまう場合があるそうです。
「リスやネズミの仲間のヤマネ」では、体の大きさ(一番、体が大きいのはリス、そのつぎはネズミ=アカネズミ、そしてヤマネ)やしっぽの形など、ヤマネの体の特徴的な部分について紹介し、リスやネズミと見分けるいくつか尺度を自分の知識として、ひとつでも持ち帰ってもらうことを意図しています。
展示台には、同じ仲間ながら体の大きさが異なることをグラフィックパネルに使用したイラストを原寸大の大きさに切り出しを展示したもの、ヤマネの体重約18グラムを理解するため、1円玉とキッチン用のはかりを用意して、いったい何枚積むとヤマネの体重になるか、体験するアイテムも用意しました。
もし、あなたが屋外で冬眠中のヤマネを発見したら、
その場所に、そのまま放っておきましょう。
ケガなどで弱っているヤマネを発見したら、
すぐ獣医さんに連れて行き、野生復帰できるようお願いしましょう。
最近では、ペットショップで外国のヤマネが売られていますが、
そのようなヤマネは絶対自然に放さないようにしましょう。
できれば飼わないことが、外国のヤマネを守ることにつながります。
人の利用する車道は実はヤマネの通り道をこわしています。
そんな場所を見つけたら枝や幹をかけて、
ヤマネの通り道を作ってあげましょう。
かわいいヤマネは、日本の森で長い時間を行きぬいてきました。
こんなヤマネたちと人々が、いっしょに日本で暮らせるようにするためには、
人々が“力”が必要なのです。(グラフィックパネルの文章より)
「ヤマネのためにあなたができること」は展示のエピローグですので、ヤマネと地域の人々が共生するため、具体的な行動に少しでもつながる内容にしたいと思い、上記のような文章を考えました。この展示を見た来館者が、いつかの日かヤマネと出会い、この最後のパネルに書かれている文章を思い出し、正しい行動につながってくれたら。本当に企画者の冥利につきると思います。
この他、湊さんの研究室に無造作に置かれていた世界のヤマネグッズをガラスケースの中に整然と陳列したコーナーや、研究素材として撮影した珍しい映像が見られる映像コーナー、ヤマネに関する図書がたくさん読めるヤマネ文庫なども用意されています。
また、8月16日(土)〜18日(月)には、響の森で湊さんの講演のほか、特別イベントが開催されますので、お近くの方や興味のある方は是非是非、足をお運びください。
<この特別展示および関連イベントは終了しています。>
氷ノ山自然ふれあい館 響の森
キープ・ネイチャーセンター やまねミュージアム
ヤマネをとおして独自の環境教育を創造し新たなプログラムを開発する(カルチベイト13号より)
雪の森の中のやまねミュージアム
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