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タスマニアといえば「タスマニア物語」のように南半球オーストラリアの北海道というイメージ以外には日本との関連性はうすいように思われます。が、去年、今年と両国の山間部地域コミュニティーを訪れた際、その人々と自然との深い関わり、そして、それを脅かす開発という共通性に感銘し、文化をこえた交流がコミュニティーの活力源になるのではないかと考えました。ここでご紹介するタスマニア「こだまの森」プロジェクトは、自然を「文化をこえたコミュニティー共通の文化遺産」として守っていこうという試みです。
去年訪れた青森県白神山地地域、そことの共通性を感じたのがタスマニア北東部、セントメリーとブルーティアー森林地域。タスマニアと青森の共通点としては、南、北緯40°に位置する偏狭寒冷地、ブナ森林、りんご生産 で知られ、自然世界遺産を持つ、また、その登録に至った開発反対、自然保護運動の歴史 などがある。世界遺産は「重要な普遍的価値 」を認めるものだが、その恩恵が自然との共生を実行、目標とするコミュニティー には必ずしも届かない。住民にとって自然、土地は生活そのもの、コミュニティーが分かち合う恵みの源、また、精神的つながりや共同作業の場でもある。特に山や丘などどこからでも見える地点は住民共通のランドマーク、共有のアイデンティティーで、「見上げればいつもそこにいる」守護神でもある。住民と自然との深いつながりを表す文学、芸術はタスマニアにも多く、セントメリー出身の作家リズ・ディーンのエッセー「山へのてがみ 」にも「あね・いもうと山」として親しまれる丘、シスターズへの郷愁がつづられている。
シスターズの満足気な表情が好きだった
たがやされておとなしくしている畑とちがって、だれもさしずなどしない
二人はひっそりと、ささやきあっているだけだった
しかし、経済的に弱いこれらの山間部は、道路やダム建設、森林伐採など開発の波に打ち向かう手立てが少ないのも共通で、シスターズやブルーティアー森林にも伐採の危機が迫っている。
ここ数年「森林−木材チップ−日本」に関する報道が増えるに従いタスマニア在住の日本人コミュニティーでも意識が高まりつつある。紙と森林の関係、つまり、紙が一体どこから来るのかについての日本語の情報は少ない。タスマニアで原生林 が未だに伐採され、皆伐後に焼却、原生小動物の毒物駆除 がなされる、木材チップの90%が日本に輸出されること、などは知られていない。が、大量消費、大量廃棄を余儀なくされ、正確な情報が乏しいのは世界共通の問題で、日本が無知であるわけではない。「お客様方にタスマニア森林と紙についてお話したり、伐採地をお見せすると、皆さん大変ショックをうけられます」(ガイド、荒川六郎さん)。環境意識の発信源としては、自然保護運動の歴史をまとめた「For the forest 」、スティックス森林で地上80mに設置したキャンプで5ヶ月間過ごした活動家野田沙京君のホームページ日記 。また、タスマニア大学や英語・環境教育学校 で学ぶ日本人学生などは皆、情報源となるだけでなく、実際に行動を起こすことで意識向上の原動力となっている。日本−タスマニアのつながりを強めていくことは自然保護という共通の課題とそれに情熱を持つ人々の連携を図り、新しいエネルギーを生み出すだけでなく、いかりや非難など否定的になりがちな環境保護のことばを、「自然賛美、感謝、地域の連帯感、文化交流、友情、信頼」など、強く前向きなものに変えていくことでもある。
交流の第一企画「日本ータスマニア自然保護交流 」は、セントメリーズの冬至祭りとブルーティアーの伐採反対キャンプ を訪れ、友情声明と歌(ふるさと)で交流を図るもので、グリーン党ボブ・ブラウン代表からも強い賛同を受けた。「この交流は、自然保護への思いに文化のへだたりはなく、同じ目標、信念、情熱が文化をこえて人々をつなぐことを示します。この交流が強い友情となって実を結ぶことを確信しています 」。日英両方で書かれた声明文には、コミュニティーの自然保護活動を支援するメンバー全員の誠実な思いが込められている 。
森 の散策後に訪れた皆伐地では、その傷跡の無残さがメンバーの涙をさそった。しばらくはことばもなく、皆伐地のむなしい空間には悲しさ、ふがいなさ、怒りがただよう。が、同時にそれは、この企画の意義の大きさを確認するものでもあった。上空には一つがいのオナガイヌワシ が現われ、メンバーの気持ちを察するかのように舞い続けていた。
帰路立ち寄ったセントメリーのカフェ e−Scape の入り口には「友情声明文」が堂々と展示さられていた。「それを見て、あ〜、何か大事なことをやったんだな、小さいことでも、私たちにできることはあるんだな、と思いました。参加して本当によかったです」。メンバーのコメントは、小さな実行が生み出すエネルギーの大きさ、また、人々の情熱、信念、責任感が「自然遺産」に神聖な意味を与えることを感じさせた。
日本人学生ら30人が再度北東部へ向かう。企画第二弾はアニメ「もののけ姫 」の上映と、一週間寝ずに手縫いした100個以上の木の魂「こだま」を、上映後に住民と伐採予定地 に置くことで、ドキュメンタリーメーカー、TV、新聞記者など広報手段も確保した。
交流は「強い友情となって実を結んだ」だけでなく、長期的な協力へと発展していった。企画の終わりに、コミュニティーの一員、スティーブさんが彼の所有地にメンバーを案内し言った。 「この地を日本人の皆さんにさしあげたい 」。温帯多雨林とユーカリが混在する2エーカーのブッシュ。オーナーに任命される名誉はもとより、彼がたった2回会っただけの日本人グループに示した信頼は深い感動と責任感を呼び、地元のより強い結束ともなった。「こんなに感動したのは久しぶり。(コミュニティーの一員であることを)とても誇りに思います 」。
帰路いなか町のパブでテレビニュースを見る。「日本人学生たちによる静かなアクション」を伝えるレポーターのインタビューに答えるメンバーの姿は堂々と、英語もはっきりしていて、ここ数ヶ月間で全員が自信、行動力、英語力を身につけたことが明らかだった。帰りの車で思いつく限り歌った日本の歌には、複雑な「ふるさと」への郷愁があった。家族のいるふるさと、学び暮らすふるさと、情熱と友情がつくる新しいふるさと。こだまの魂は文化をこえ、日本人メンバーによる環境グループ Echo が誕生した。
アンカーロードとロタロードの角から、左へ行くと皆伐地、右へ行くとクリスタルヒル伐採予定地, その道路沿の森の入り口に看板が見える。「こだまの森Kodama Forest -
Friendship between Friends of the Blue Tier and Echo. Since 2004」。Echoメンバーのテーブルを使って手作りしたこの看板は、そこを通るだれもの目に留まる。第一企画から6ヶ月後の11月28日、森の命名式が行われた。クリスタルヒル伐採予定地に置かれた「こだま」たちは5ヶ月たった今も少し気味の悪いほほえみをたたえて静かに森の中にひそんでいる。伐採作業が一時停止しているのは、このこだまのおかげとか。うわさによると、こだまは知らないうちに増えているとか、特に伐採が迫る地区では。
上空に再び現れたオナガイヌワシを見上げると、今回はコミュニティーの新しい一員として守り神に見守られるような安心感があった。「こだまの森」には散策の小道と静かに座って瞑想できる小さな東屋に日本の伝統音風景を取り入れる「水琴窟 」を設けたら、そして、日本人に限らず、コミュニティーや訪問者のだれもがふれあえる森にできたら、毎週水曜日に開かれるエコーのミーティングではそんな話し合いがすすめられている。
自然の文化的意義をつくっていくことは住民と自然・土地とのつながりを強めるだけでなく、コミュニティー、つまり、人と人とのつながりを強め、自然環境への責任感へと発展していく。特に、同じ土地に長く住む人が減り、様々な意味で多文化社会になりつつある今日、土地に根ざしたコミュニティー作りは環境保護への重要なカギだと言える。そして、自然美への賞賛や感謝、地域社会と「人」の重視、儀式、イマジネーション、想像力、芸術や文学などは人と自然、そして、人と人とをつなぐ手立てとなる。特に文化をこえての連帯は自然環境保護に大きな力を与えてくれる。
近年、英語研修地としてオーストラリアを選ぶアジア、日本人留学生が多い。が、教室外で意義ある地域活動に参加し、実体験を通じて英語を学ぶ機会は限られている。特に自然科学や環境に関心のある学生にとって、タスマニアの魅力は大きく、英語、自然科学、環境管理、教育、またアウトドア教育・活動の地としてタスマニアは大きな可能性を秘めていると言え、この点でも、伐採から教育、観光への方向転換が望まれる。「こだまの森」が、自然保護をめざしての文化をこえたコミュニティー交流、伐採から教育の場への転換の実例となることを願っている。
今回私たち日本人一同はブルーティアーを訪れ、この森が地域住民の皆様の生活の一部であり、文化的・自然生態的に素晴らしい価値があることを認識しました。それと同時に、この素晴らしい森が、伐採の危機にさらされていることを知りました。「ブルーティアー友の会」の皆様による自然レクレーション保護区への指定を求める一連の活動は、自然と地域社会の持続可能な共生を目指した、有意義かつ素晴らしい活動であります。そして、残された自然環境を保護し、次の世代へ手渡すことは、21世紀を生きる私たちの使命であると考えます。
その中で我たちができることは、ここで見てきたことを伝え、多くの人々の関心を引き、それによってブルーティアーの森の価値を理解してもらうことです。それこそが、この場所を訪れた私たちの責任と考えます。私たち、タスマニアに在住する日本人は、この素晴らしい自然を本来の姿のまま残してゆきたいという気持ちにおいて、皆様と同じであり、皆様の要請運動を強く支援し、協力していきます。また、この活動の趣旨を深く理解し、帰国後もこの思いを忘れることなく伝えていくことをここに誓います。
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