自然・環境教育におけるノンパーソナルインタープリテーションの課題と展望

河野 宏樹プロフィール

環境教育におけるインタープリティブプランニング&デザインを専門とする会社を設立した著者。これからのノンパーソナルインタープリテーションのあり方を提案する。

(2006/9/4)

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愛・地球博「森の自然学校」で使用したセルフガイドブックと黒板サイン

これまで、日本国内の自然学校、自然ふれあい施設、ビジターセンターなどで行われてきたインタープリテーションは、直接的・対人的なもの(パーソナルインタープリテーション)が主流であり、間接的・非対人的なもの(ノンパーソナルインタープリテーション)においては、展示が主な手法であった。実際には、後者の手法は展示だけではなく、セルフガイドシートをはじめ、様々な手法が考えられるにもかかわらず、その開発は十分とは言えない。そこで、このコラムでは、ノンパーソナルインタープリテーションの課題とその展望について考えてみたい。

パーソナルインタープリテーションとノンパーソナルインタープリテーション

インタープリテーション活動の中でも、自然学校におけるガイドツアー、博物館における学芸員の展示ツアーなど、直接インタープリターがビジターを目の前にして行うものをパーソナルインタープリテーションと呼ぶ。パーソナルインタープリテーションは、参加者の様子を逐一観察しながら進行し、それに応じて臨機応変な対応ができるので、最も効果的なインタープリテーションの手法と言える。しかしながら、パーソナルインタープリテーションは、単位時間当たりに参加することのできる人数が限られていたり、その効果がインタープリターの力量に左右されるというデメリットもある。
それに対して、紙面、展示、映像を利用することにより、直接インタープリターを介することなく、ビジター自身で体験するものを、ノンパーソナルインタープリテーションと呼んでいる。インタープリテーションの効果としては、よく練られたパーソナルインタープリテーションには及ばない。しかし、単位時間当たりに参加することのできる人数が多く、プログラムとしての完成度が高いツールを用いることにより、高い水準のインタープリテーションを実施することが可能である。また、現状のノンパーソナルインタープリテーションの最大の問題点としては、全体のプログラム計画の中で補助・補完的に位置付けられてきたため、体系的なプログラムとして十分に機能していないことが挙げられる。このことに関しては後で詳しく述べたい。
多くの施設やフィールドにおいて、ビジターの滞在時間、興味対象の多様性といった条件に応じて、両タイプのインタープリテーションを使い分けることが望ましいと考えられる。

セルフガイドシート:3つの分類と現状

我が国において、インタープリテーションと言えば、パーソナルインタープリテーションを示すことが多く、ノンパーソナルインタープリテーション、特にセルフガイド(主に紙面などを用いて、各自の興味や関心、学習レベルなどに応じて、自らが主体的に対象物と関わる自己誘導的な解説方法)に関しては、これまで、その可能性を十分に模索してこなかった。
そこで、私がプランナーとして加わっているEco-Navi研究所では、(社)日本環境教育フォーラムの主催する清里ミーティング2005において、「セルフガイドシートを使用した、短時間、多人数対象プログラムの検証」という題目で、セルフガイドシートの評価軸を作成するワークショップを実施した。
その際、全国の、環境教育、自然ふれあい施設など施設から、そこで使用している、セルフガイドシート、ワークシートといった紙媒体を収集した。
その結果、そのような紙媒体は大きく3分類できることがわかった。
タイプ1:その施設や団体、フィールド等を紹介案内する機能をもった「パンフレットタイプ」
タイプ2:フィールドに暮らす生き物や自然環境を紹介し、知識を伝達する「解説シートタイプ」
タイプ3:シート等に書き込み等を通じて双方向学習メディアとしての「ワークシートタイプ」
また、ワークショップの参加者の中には、セルフガイドシートの作成経験者もいたが、現状の問題点として、人員や予算の不足が原因で、満足できるものが作成できないという声が多く聞かれた。

セルフガイドシートの評価

さらに、前述のように分類されたシート類を、以下の視点によって評価した。
1)体験促進性(やりたい、読みたいと思うか?)
2)企画達成性(環境教育としての目的、意味があるか?)
3)管理運営性(総合的にマネジメントしやすいか?)
個別の評価に関しては、ここでは避けるが、全体的な傾向として言えるのは、明確なテーマ、ストーリーをもって、企画製作者が伝えたいことを、その紙媒体のみで実現している例は非常に少ないことである。さらに、その中でも、時を追って適切なアップデートが繰り返されていると推測されるものは皆無に等しい。
また、「パンフレットタイプ」は比較的、印刷配布物としての質、ビジュアル的に凝ったものが存在するが、他の2タイプでは特に、印刷物としての魅力が疑われるものが多い。セルフガイドシートは、それ自体を所有する事の価値が高いならば、後から振り返りの機会を作ることのできる優れた教材であるが、その機会を失っているのは残念なことだと考えている。
さらに今回、様々な紙媒体を集める中で最大の問題点だと考えたことは、指導者やガイドが介在するプログラムの中で使用するための補助・補完的なワークシート・資料が多く、単体で体系的なプログラムとして成立するものは少ないことである。ノンパーソナルインタープリテーションは、パーソナルインタープリテーションの補助・補完的な役割だけではなく、単体で体系的なプログラムを展開できるものとしての役割もあるはずであるが、現状としては十分に開発されているとは言えない。
そこで、次項からノンパーソナルインタープリテーションの手法として、私が関わったものの中から、今後応用可能なものをいくつか提案してみたい。

セルフガイドブック

2005年、愛知県で開催された「愛・地球博」にて、(財)2005年日本国際博覧会協会の事業で「森の自然学校」が主催された。その中のセルフガイドプログラム「森あそびセレクトツアー」に、Eco-Navi研究所のメンバーが製作に関わっているので、その時例を挙げることにする。
森の自然学校は、博覧会という会場のため、一般的な施設やフィールドと比較して、非主体的な参加者が多い環境である。そのため、セルフガイドの担う役割は大きく、博覧会という条件を満たしつつ、環境教育としての効果があるプログラムを念入りに検討・製作する必要があった。
特にプログラムを体系化(オーガナイズ)する手法に関しては、フィードバックを基に何度も改善した点である。プログラムを体系化する手法はいくつかあるが、今回は、フィールド型で、歩行に併せて場所・プログラムが展開するという内容であるために、導入にスライドショー、フィールドではセルフガイドブック、出口で人的なフォローを行う手法を取った。
導入のスライドショーでは、プログラムの意図説明と、安全対策など基本情報を規定時間内に盛り込んだ。具体的な活動内容は、セルフガイドブックにて全て指示を出し、リングで閉じてあるブックのページをめくると場面転換が起こるようにした。そして、ひとつひとつのアクティビティを体験することを通じて、全体のストーリーを形成する手法を取った。フィールドに設置したポイント番号と、セルフガイドブックのページ番号を一致させ、体験者がプログラム全体の、どの段階に位置しているのか理解できるように工夫した。このためフィールドでの人的フォローは最小限に留めることができ、スムースなセルフガイドを運営することが可能となった。

更新型ハンズオン展示とセルフストーリーテリング

また、「森あそびセレクトツアー」では、セルフガイドブックに則らなくても楽しめ、敷地内および展示物などの見せたいものに、視点をフォーカスさせるしくみとして、随所に単発の更新型ハンズオン展示や、セルフストーリーテリングを設置した。更新型のハンズオン展示の一つに、「森の句会」がある。自然体験活動のアクティビティとして、俳句を読むことは珍しいことではないが、句を展示ボードに書き込むこと自体は完全にセルフにし、句そのものが展示物になるように工夫した。
また、セルフストーリーテリングという前例のあまりない手法も取り入れた。「森人(もりんちゅ)の大冒険」というタイトルで、森の妖精「森人(もりんちゅ)」が、森の中を探検しながら、そこにある自然の話をするというアクティビィティである。森人の人形を、フィールドの中に設置し、彼らのセリフは黒板に書き込んである。ビジターはこのセリフを読んでいくことにより、森の中で実際に起こっている出来事を理解していくというものである。
両者とも、メインの展示物などが存在するゾーンから離れた所に設置し、まんべんなくアクティビィティが実施されるよう全体計画を心がけた。また、人的なプログラムを必要としないビジターにとって、他のビジターが集中しない空間を作ることは必要であり、そのような空間を利用して展開するアクティビィティとしても有効であった。

これからの展開

これらのノンパーソナルインタープリテーションの手法は、目立って新しいものではないかもしれないが、双方向・参加型のプログラムを通じて、対象者自身に自発的な学びを提供したり、実施環境や人材にフィットした形で、十分にプランニング・実施している例は少ない。そこでEco-Navi研究所では、セルフガイドシステムを始めとしたノンパーソナルインタープリテーションのプランニング、デザイン、実施、評価、人材育成などを通じて、持続可能な社会づくりを提案するために、これからも活動していく予定である。

記事に関連するサイト

Eco-Navi研究所
森の自然学校


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▼著者プロフィール

著者近影

河野 宏樹(こうの ひろき)

プロフィール
株式会社Eco-Navi研究所 コンテンツプランナー
環境教育事務所Leaf 代表
1974年広島県生まれ。
2000-2004年:ホールアース自然学校に勤務し、年間200日以上、自然体験活動、環境教育活動に取り組む。
2005年:愛・地球博「森の自然学校」のチーフインタープリター。
環境教育・自然体験活動の企画・実施、インタープリテーション、WEBサイトの構築が専門。

▼筆者の近況もしくは、おススメ情報

新宿御苑100周年WEBサイト
100周年の記念イベントの案内の他、お楽しみのページでは、苑内のセルフガイド、木々のシルエットのポストカードなど、様々な情報を掲載しています。

▼著者が過去に書いたコラム

インタープリテーションに使用される道具の分類と考察 前編

(2006/10/4)

インタープリテーションに使用される道具の分類と考察 後編

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