【Cultivate Vol20 特集◎博物館とコラボレーション事業】より

「回想法」事業の展開によって精神的福祉の向上を実現する

師勝町長 長瀬 保 プロフィール 師勝町Webサイト 師勝町の回想法事業
インタビュー/高橋信裕



町民との膝詰めで生まれる思いやりのある行政

写真
図書館・歴史民俗資料館 外観

高橋――町長の就任挨拶にありますように国際化、少子高齢化、情報化の中で、行政ニーズは複雑多岐に渡っています。それを絞り込んで、この師勝町ではここがポイントだ、と把握されている点はどのようなところなのでしょうか。

長瀬――私は地域に出ているんですよ。地域のリーダー的な立場にあられる方たちに集まっていただいて、今の町の現状やさまざまな取り組み、ビジョンを訴えて、それに対してまた地域の方が持っている要望や経験などを聞き、コミュニケーションを持つ中で住民ニーズを吸い上げてきています。就任以来、町政懇談会に取り組んでいます。その中で数多くの要請、要望、苦言までを頂戴して、ひとつひとつをこちらで整理してお答えするよう努力しております。

高橋――そういうこともあって、政策としてはかなり生活に密着したものが多いですね。

長瀬――大きなビジョンということではなく、住民の生活そのものが生の声として伺えるということ、またモニターや「一声ポスト」など、さまざまな手法も取り入れています。直接町民と膝詰めで意見交換し、こちらも理解していただくという、接点づくりを大切にしているわけです。

高橋――そういう意味では、住民に思いやりのある行政体質ができ上がっていますよね。

長瀬――私の基本的なスタンスは、共存共栄というか、住民と一緒に作り上げてこの町で生活していこうということですから、生活しやすい町民意識を作っていこうと取り組んでいます。

福祉と文化の融合が、新しい博物館を産んだ

写真
写真
写真
写真
写真
歴史民俗資料館展示風景

高橋――我々の関わるミュージアムは、今までは、生活や時代から縁の切れたものが一部の研究者に公開されて、研究の糧にされているといったものが多かったわけです。でも、師勝町ではそうではないですよね。

長瀬――たとえば歴史民俗資料館のモットーは、ひとつひとつの固形的なものに対して、直接手で触れて肌ざわりで実感する部分、箱の中のものを眺めるだけではなく、身近に自分自身の目で確かめ感じて、自分のひとつの郷愁を感じながら活力あった自分自身を取り戻すということを大事にしています。

高橋――生活資料を文化財に高めたわけですね。そういうのは、今までになかった発想ですよね。

長瀬――最初、ここで展示を始めたとき、ひとつの違和感として町民は受け止めました。「これ、家にもあるじゃないか」というふうに。言葉は悪いですが、ガラクタみたいなものだと。ところがそれで住民が刺激されたんです。こういうふうに飾れば、こういうふうになるというように、新鮮な親しみを持ってくれた、というところなんです。

高橋――それが、鑑賞する人と文化財という隔たった関係ではなくて、実際に手に触れられ、身近なものとして両者が共生するということがあって、当面する社会問題の解消にもなるわけですよね。

長瀬――博学というのを、私どもからは遠いものに位置付けていましたが、それでは親近感を持てない。また、歴史的に偉い人が作ったものだと乖離してしまったあり様が今までの博学だったと思います。

高橋――そういう意味では、博物館の意味を師勝町はずいぶん変えてきている気がします。

長瀬――革新的な捉え方ですよね。

高橋――展示技術に関しては先端的なものが導入されているわけではないけれど、博物館自体の捉え方、位置づけが斬新で新しい。当面する社会の問題に向き合っていますよね。高齢化社会の中で老人に対する癒しになっているというのは、福祉と文化の連携融合ですね。

長瀬――福祉には精神的な部分がかなりのウエイトを占めていると思います。誰でも老いていくのは好まないものですが、その面から言うと、こういう資料館に接することで、自分自身が一世を風靡した頃にタイムスリップして自分自身をあらためて認識するというところに活力が生まれてくると思います。そこを大切にしなければならないと、私は思ってるんですよ。 

高橋――今まで行政はハードの整備は得意だったけれど、今おっしゃったような精神面での整備には手が行き届かなかったですよね。

長瀬――私もここでずっと生活してきたひとりとして、ある意味では物質的な福祉はもう充分ではないか、これからは精神的な福祉だと思うんです。そこをもっと重要視してお互いに感じあい、求めあうものを共通のテーマとしていかに育てていくかというのが、これからの福祉分野には必要だと思います。お金や施設やモノに頼る時代ではなく、心や精神的なものをどこまで満たして充実感を持って自分が人として生きていくのか。そういうことが特にこれからの我々行政の立場には必要なことではないかと思います。

高橋――我々がいちばん気付いていないのは、我々は実は豊かなんだ、ということですよね。

長瀬――そうですね。物質的には豊かでも心の豊かさという面に関しては、まだまだ満たされていないと思います。今までは、お金やモノや施設を差し上げましょう、ということで、自分自身から求めたものとは違う方面で行政が与えてきたということだと思います。

高橋――個人個人の可能性まで期待していくというのも、今まで行政にはなかったところですね。「それは自分たちでできるのではないか」ということに気付かせてあげることが、今の師勝町にはプラスになっているのではないでしょうか。

長瀬――いわゆる自己支援、自助という意識を高め、また自らそれに気付いて行くという取り組みを、もっと誘導していくことが必要だと思います。それを周りの人が思いやり、いたわりあい、助け合う。愛情をもっと赤裸々に出しあって、ともに生きていこうということを町民意識として作り上げていきたいと思います。それを機会あるごとに訴えています。何もお金はいらなくて、気持の持ち方でできますよ、と。精神的な福祉ですよね。それがたまたまこの歴史民俗資料館が相乗的な効果になった。
 それをさらに発展的に位置付けて、高齢者福祉の部分にも活用できる素材が、この師勝町には揃っている。それをもっと活用していこうということなんです。文化と福祉のジョイントから精神的な福祉を高めていこうと。そのへんを、最近は皆さんがかなり理解してくれて、町作りに対する参加が高まってきて、ありがたいことだと思っています。ボランティアなどの奉仕活動や、自分たちの町をこうしていきたいという提言が増えてきました。前向きな町民の人が増えたんです。以前は、とにかく行政を敵対視する時代もあったんです。でも、私が就任してから、そういう極端なケースが少なくなりました。
 私は誠心誠意、ものごとに取り組んでいこうとしていますし、お互いに良識の中で思いやっていこうと最初から言っていますから、そんな町長に文句をいってもしょうがない、ということなのかもしれませんね。(笑)

高橋――今回も無投票で就任されましたよね。

長瀬――贅沢を言うわけではありませんが、自分の実績を確認したいという気持も片隅にはあります。もちろん、戦いはたいへんなエネルギーが必要ですが、無投票はそういうエネルギーは使わない代わりに住民の評価が確認できませんから。選挙では評価も批判もある意味でははっきりしますよね。その点無投票はそういうことがありませんから、余計に責任を感じ、自分に鞭打つようにして緊張感を高めています。




ページトップへ

© 2000-2004 Institute of Cultural Environments