【Cultivate Vol23 特集◎観光再生の時代と文化環境】より
国土交通省 総合観光政策審議官 鷲頭 誠
プロフィール
インタビュー/津田雅人
津田――観光ルネサンスといったときに、全体の政策を見てみると、ずいぶん前に言われていた「観光」という言葉を正しい意味で再生させるという感じがします。今まではともすれば単なる娯楽と捉えられていたものが、国に対する評価や国づくりそのものにまでなってくる。それが新たな魅力を見つけ出すことになり、結果として観光になっていくような印象を受けます。観光という言葉を本来の形に戻していくという意味合いが強いのではないでしょうか。
鷲頭――おっしゃるとおりですね。私たちもあちこちでこのような話をすると、「観光という言葉自体がよくないのではないか」という意見を受けます。観光というと、単にどこかに出かけていってお土産を買ってくるだけで、文化などの知的な香りがしない。今、僕らが観光地づくりなどを通してやろうとしていることや消費者が求めているものは、単なる物見遊山ではなく、その地域の歴史や自然、文化とその地域の融合を体現してくれる人がいてはじめて満たされるものだと思うんです。
かつてのように、働いて食べて寝るだけのゆとりのない世界では求められなかったことなのでしょうが、今はある程度豊かになり、成長というよりは成熟した社会になり、振り返ったときに「何が楽しいんだろう」と考えると、新しいところに行ってみるだけではなく、知的好奇心が満たされる場所に行ってみたいと思うのではないでしょうか。だから、それに見合うような観光地をつくりたい。それには、昔のようにご当地ソングに名物の饅頭だけではダメで、ある程度生活が成熟して豊かになった多種多様の人々に合ったものでなくてはならない。逆に言うと、バリエーションもどんどんつくらなくてはならないと思うんです。今までの観光地づくりは観光バスでドッと訪ねるようなものが多かったのでしょうが、これからはそれぞれの個性を生かした観光地をつくり、それを求めてくる人たちに対してうまくマーケットとして発信してあげるような仕組みづくりが必要です。それがうまくいけば、たくさんのお客さんが来てくれるようになると思います。そういう意味では、博物館などもうまく活用できると思います。「ありがたいところがひとつだけ」という観光地ではなく、町と博物館、美術館がうまく融合したものをつくらなくてはならない。先日も文部科学省の人と話をしていたら、変わったなあと思いました。博物館や美術館を「こんな立派なものがあるのだから、さあ、見ろ」という勉強の場ではなく、観光客に気軽に見てもらうようなものに変えていきたいと言うんです。どうやって変えるのかというと、ひとつには、たった一枚のパンフレットを渡すのではなく、語れる人とのツアーを行ったり、館内のレストランの質を上げたりするという。博物館や美術館に散歩に来て、レストランで食事をするだけで帰ってもらってもよいようなものにしていきたいと言うんです。昔のように、国の文化財産をかしこまって見ろ、というのではない。ずいぶん変わってきたと思いました。
まさに、そのようなアプローチと僕らのアプローチがうまく融合すると、よい観光地がつくれると思います。イギリスにブリティッシュ・ミュージアム・オブ・ナチュラルヒストリーがあります。そこでは、恐竜の横でディナーをとっている。そこまではいかなくても、せめて場内でレセプションくらいはできるようにするとか、開館時間にしても9時から5時というのではなく、夜の庭園や雰囲気も楽しめるようにするなど、工夫の余地がたくさんあります。またそういうものと一緒に観光地づくりを進めていかないと、よい観光地にはならないのではないでしょうか。
津田――小泉総理は、まさに省庁を超えてこれを実現しようとしていますよね。 そういう意味では、各自治体に移っても観光は観光課というのではなく、例えば社会教育の人たちも一緒になって地域の文化を見直していくために枠を超えていくという課題がありますね。
鷲頭――省庁を超えるという点では本当に幅が広くて、外国からの観光客に関して言えば外務省や法務省などのビザや入管の問題があり、文化庁や文部科学省の話もあり、田舎に行けばグリーンツーリズムのような農林水産省が絡む話も出てきます。関アジや関サバなど、先覚者が努力して守ってきたものに関しては、地域ブランドとして経済産業省の意匠登録などの問題も出てきます。そういうことも、ひとつには観光振興の励みになりますからね。
津田――観光キャンペーンをしたら全国で同じものになってしまうというのではなく、もう一度自分たちのオリジナルを生かし、お互いにそれを認め合う社会になることが大切ですね。
鷲頭――日本人はどうしても横を見がちで、あちらがやっているからこちらも、というように似てしまう傾向がありますね。
津田――情報が非常に早く交換されますから、よその成功事例があればすぐにやろうということで、結果的に似てしまうんですね。
鷲頭――頑固に自分たちの文化を守っているヨーロッパの街とは明かに違いますよね。良いところも悪いところもあるでしょうが、やはりもう少し個性というかローカリティを生かしたまちづくりが必要かもしれません。
津田――海外からのお客さまが来られるとなると、日本のそれぞれの地域づくりにおいても、世界から見てどのように認められるかという視点になり、だいぶ変わってきますよね。そういう意味では、試練でもあるけれど、チャンスでもある。
鷲頭――よく言われていることですが、観光地づくりは何かというと、ものすごい国際競争なんですよ。車の部品などの製品づくりは、同じ質なら安い方へ流れ、中国などへ出ていってしまう。ところが、観光地は動くわけにはいきませんから、日本の中のその場所で闘わなくてはならない。そういう意味では、外貨が入ってくるという点からも、輸出産業の典型なんです。だから、海外の観光地とも闘わなくてはなりません。草津温泉が伊香保温泉を見るのではなく、極端な話がパリを見なくてはならないんです。高くても、よければ人はやってきます。その「よさというのは何か」が、まさにこれから国として環境整備をしていかなくてはならない点であり、地域の人たちは一生懸命に自分たちで考え、よさを出していただかなくてはならない点だと思います。
津田――その通りですね。ありがとうございました。