【Cultivate Vol23 特集◎観光再生の時代と文化環境】より

地域の資源に自信を持ち本当の日本らしさを伝えるべき

プロマークジャパンマネージング・ディレクター 小林寛子 プロフィール
インタビュー/津田雅人



ミラーボールのような日本の魅力を発信することの大切さ

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小林寛子 Hiroko KOBAYASHI

津田――現在、政府が「ビジット・ジャパン・キャンペーン」を展開しています。小林さんはオーストラリアと日本の両国でお仕事をされていますが、特に海外から見たこのキャンペーンの捉え方はどのようなものなのでしょうか。

小林――オーストラリアでは、このキャンペーンの存在自体を知らないのが実情です。私は日本に帰ってくるたびに、オーストラリアの観光局がやっているキャンペーンをたくさん目にしますが、オーストラリアにいると、日本の観光についてのキャンペーンはほとんど目にしません。実際、アメリカからの観光客を案内したのですが、 「ようこそ、日本へ」などのキャンペーンロゴも初めて見た人がほとんどでした。オーストラリアにいると、日本からの観光客にはたくさん会います。逆にオーストラリア人が同じように日本に来ているかというと、全くそうではない。やはりまだまだオーストリアの人々の中にある日本のイメージは、神社仏閣を中心とする古式ゆかしい伝統と、高層ビルが建ち並ぶ都心や、テクノロジーに代表される秋葉原のイメージから抜けきれていないという感じがします。半年くらい前、オーストラリアのテレビ局が日本の桜をテーマに番組を作りました。日本の桜はあまりにも有名ですが、今までオーストラリア人の中には、桜の花自体のイメージしかありませんでした。ところが、この番組では桜前線が南から北上するのに合わせ、それぞれの町を訪ねながら、桜の花とそれにまつわる祭り、行事、慣習、食べ物、さらに友禅の着物の柄に描かれた桜、花見の様子など、桜にまつわる日本の文化と日本人の生活の営みを細やかに取材したのです。日本を知ってもらうということは、日本人を知ってもらうことであり、日本の文化や歴史、日本の味や風景を知ってもらうことだと思います。ですから、これから日本に来てもらう人に対して、いかにそのような情報を細やかに出していけるかが重要なことだと思います。

津田――逆に言うと、今まではステレオタイプではない日本を伝える情報が発信されていなかったのでしょうね。

小林――日本はミラーボールのようなもので、伝統的なものと近代的なものが同居し、四季という季節感によってうまくミックスされています。外国に住んでいる立場から見ると、いつ行っても何度行っても楽しい日本というイメージが必要だと思います。私も日本に帰ってくると、季節に応じて桜を見たり紅葉狩りをしたり、温泉に行って土地の美味しいものを食べたりすることが楽しみです。外国に住む人が日本を体験するときも、そういう楽しみ方がなければ、無機質な日本になってしまうし、それこそが外国にはない日本の強みだと思います。自分の住む国や地域、文化に自信を持って「来てよ! 後悔させないから!」くらいの気持がないと、旅人は楽しめない。日本人の「おもてなしの気持」と地域の魅力をうまくかけ合せることによって、もっと魅力的なデスティネーションになると思います。

エコ・ツーリズムのモデルとしてのフレーザー島

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キングフィッシャーベイリゾート全景。
フレーザー島の西側にある65ヘクタールのすり鉢型の敷地にすっぽり包まれるように設計された。
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キングフィッシャーベイリゾート&ビレッジ。
エコリゾートとして環境に最大限の配慮をし、島の自然を満喫してもらうことを目的にデザインされている。

津田――小林さんがオーストラリアで観光の仕事をなさるようになった経緯と、オーストラリアで観光の本当の魅力に気付かれたことなど、お聞かせ下さい。

小林――そもそも観光業に入ったのは、フレーザー島という世界で一番大きい砂の島に新しい観光施設を作るプロジェクトに関ることになったことがきっかけでした。1988年、国際レジャー博覧会がブリスベンで行われた際、日本館で仕事をして、その後、エコリゾートを作る企業に入ったのです。プロジェクトは、フレーザー島の環境を大事にしながら、いかにして観光客に環境を楽しんでもらえる宿泊施設を作ることができるか、というものでした。フレーザー島は、今やエコツーリズムや環境に関係している人にはかなり知られる存在となり、世界遺産としても知られています。とはいえ、日本からの観光客は全体の2%程度に過ぎません。フレーザー島が道を誤らなかったのは、オーストラリア人が一生に一度は行ってみたいパラダイスと思っているフレーザー島にオーストラリア人が一番楽しめる形でリゾートを建築し、オーストラリア人が一番楽しめる形でプロモーションしたことです。こんもりとした自然の中に抱きこまれているようなイメージで、建物自体がリゾートらしい豪華なものではなく、フレーザー島の自然を楽しむためのシェルターとして一番適した形になっています。必要以上のおせっかいはないけれど、欲すればいくらでも情報が提供されます。過ごし方にしても、日がな一日プールサイドで過ごすこともできれば、活発に動いて自然を体験するためのツアーもたくさん用意されています。お客さんとの距離感がすごく適切だったと思います。

津田――自然がひとつのテーマだと思いますが、人間との関り合いという点では、いかがなのでしょうか。

小林――このリゾートができる前から年間3 0万人の観光客が訪れていました。いったい何が良くて人はここを訪れ、何を楽しむのか、というのをだいぶリサーチしました。結局、その人たちにとって重要なのは、フレーザー島の自然を楽しむことなんです。宿泊施設がなかったので、それまではキャンプをするしか滞在のしようがなく、その他の人は本土からの日帰りツアーでした。フレーザー島は沖縄本島より少し大きいくらいの規模ですから、 何日か滞在してこそ、本島の良さが分かる場所なんです。キャンプ以外でも滞在して楽しむことができ、なおかつリゾートライフというよりは自然を楽しみに来る人たちにふさわしいリゾートのコンセプトを守ろうということで、建築のプランニングの段階から最も自然に溶け込みやすい形を選択したのです。結果として、それができたことでフレーザー島の自然をバックにリゾートライフを楽しむという客層もふくらんできました。自分たちが想像していなかったマーケットもうまく誘致できたと思います。日本を主要なマーケットとして想定しませんでしたが、オーストラリアでオーストラリア人がオーストラリアの休暇を楽しむ環境に優しいリゾートというプロモーションをすると、そういうものにオーストラリアらしさを求める日本の観光客も行って楽しんでくださる。つまり、自分たちがどういう人たちに来て楽しんでもらいたいかを選ぶことによって、他のマーケットも引き入れられるのです。ただし、機軸は絶対にずらしてはいけません。ここがヒルトンホテルになることを、訪れる人たちは求めないでしょう。島には、砂にまつわる不思議がいろいろあります。旅を通して学校の勉強とは違った形で自然を楽しみながら、自然を知る……。来訪者の知的好奇心を満たすことが出来るようインタプリターがおもしろおかしく島をご案内します。私たちが伝えたいのは、この環境を守るために私たちがやらなくてはならないことは、ただここでゴミを捨てないということだけでなく、自分の住んでいる街に帰っても、ゴミの始末をきちんとすることが、実は世界遺産のこの場所を守ることにもつながっているんだということなんです。旅という非日常の体験を通して、日常を考えるきっかけになればと願っています。そういうことをうまくインタープリテーションに盛り込むことによって、多くの人にそのメッセージを持ち帰って欲しいと思っています。そして今すぐに仮に実感できなかったとしても、1 0年後に子供ができたときに島での体験を思い出し、自然について考える、自然のすばらしさを語ってくれるだけでも、それで成功だったと思えるのです。

日本の魅力は地域丸ごとの自然である

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フレーザー島の島の不思議を体感するエコツアー。
レンジャーガイドと一緒にレインフォレストの中へ……。(セントラルステーション)
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8月から1 0月までは南氷洋に戻るクジラたちが、フレーザー島と本土にはさまれた海に 立ち寄る。
ここは、南半球一のザトウクジラのウォッチングスポット。ホェールウォッ チングが楽しめる。

津田――日本人も海外に出る機会が増え、リゾートにおける時間の過ごし方を理解しつつあります。そうなると、自分たちの地域を訪ねた人に対しても、そういうことが提供できる素地もできるかもしれませんね。

小林――どうしても日本で観光というと、どこかに行って見物して土地のものを食べるくらいですよね。迎える側も、その対処の仕方からまだ抜けきれていません。ただ、旅が成熟してくると、その場所で何かを体験したいとか、土地の人との交流を楽しみたいとか、住んでいるように滞在して非日常を束の間の日常として過ごしたいなど、いろんな欲望が出てくると思います。今までの旅の形が、日常からの逃避によって癒しや楽しみだけを得るものだったとすると、今や一歩進んで、知的な好奇心を求めるものになっていると思います。その土地をもっと知って、さらにはその地域のために何かをしたいという形にまで発展して、オーストラリアの場合は植樹に来る人など、ボランティア活動につながる旅も増えています。もっとその土地と関りたいと思っている旅人が増えてきているのです。これからはそういう形で地域も旅人を受け入れるためのインフラを整える必要があると思います。日本はそのための資源がこよなく豊富です。オーストラリアの場合、自然と人々の生活が隔離されている部分がかなり大きいですが、日本は自然と人とその営みとか、そこからクリエイトされていく歴史や文化が、すぐ側にある。自然を見に行くことは、そこで暮らす人を見に行くことだと思います。ですから、その人たちにどういうおもてなしの心遣いがあるか、行く方も迎える方もそういうことを十分体験する気持があるかによって、日本の楽しみ方が変わってくると思います。今までは外国人を迎えるために、畳の上にベッドを置いたり土足で入れるようにしたり、日本のものを全て外国向けに直してきましたが、これからはそうではなく、本当の日本らしさを日本流に楽しめるための設備を作り、それを外国人がとまどうことなく使えるだけの情報を出してあげることが必要だと思います。簡単なガイドブックや外国語のサインだとかちょっとしたお世話役のガイドがあれば、十分に対応できます。あとは、その地域の人たちが、本当に自分たちの誇れる地域を外国の人たちに「これが本当の日本だ」と自信をもって見せられるか、だと思います。

津田――海外の人にとっては、日本の人と自然との営みに触れるところに魅力があるのではないか。いかにそれを生かしたコミュニケーションができるかということですね。

小林――そうですね。それが日本の自然との関り合い方であり、日本の文化の基礎になっているのだということを、適切にきちんと伝えていくことだと思います。熊野古道を白浜から那智に向けて、外国から来た人たちと一緒に歩いたことがあります。天気が悪く、道の足場も悪くて、みんなちょっと驚いた感じでした。日本の森は、人の手が入った二次林ですから、手つかずの自然という点では、どうしてもカナダなどにはかないません。でも、この森が日本人にとっていかに大切な存在で、ここから生まれた文化や産業などを通して人の生活の営みに深く関ってきたのだということをきちんと伝えてもらうと、この森の有り難みが私たちにも分かる、と彼らは言います。ですから、いかにそれをインタープリテーションできるか。いわゆる大自然というものではない自然との関り合い方を楽しむことが、本当の日本の観光資源として貴重なものだと思うんです。

津田――エコツーリズムに対する誤解もありますね。大自然と人間との間の関係性をインタープリテーションするというより、実はそこには人間の文化が重要なファクターとして存在するのだ、ということですね。

小林――私はそれを「地域の資源」と呼んでいます。類稀な自然の形態もその一部ですが、そこに住む人と、人が織り成す文化や慣習、祭りや行事を含めての人の営みが、エコツーリズムにとっては大事な資源で、それをどのようにして観光という経済活動で守っていくのかということだと思います。棚田や農村の生活などを含め、それを残すために観光がどのような役割ができるか、というところに、新しい商品ができたり、新しい日本の観光地としての魅力ができたりすると思います。今、忘れ去られている農村や漁村、雛びた田舎の村であっても、そこに資源があることが分かれば、いかようにも商品は作れると思います。ですから、日本が今までやってこなかった世界に対しての日本のイメージ作りにおいて、そのようなものも商品として海外に売り込めるということを、きちんと整理してマーケティングするべきだと思います。観光の関連産業として、留学生や映画の招致、コマーシャルの映像や番組など、日本がプロモーションされるチャンネルはいろいろあります。それらを使って日本のイメージを多角的にアピールしなくてはならないと思います。




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