【Cultivate Vol25 特集◎博覧会の意味】より

「時代の鏡」愛知万博が映し出す現代社会

構成/編集部



国家による「垂直万博」から市民による「水平万博」へ

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 いつの時代も万博は「時代の鏡」であった。すると、二〇〇五年の愛知万博が「鏡」として映し出すものは果たして何なのだろうか?

 世界初の万国博覧会は、一八五一年にロンドンで開催された。そして、日本で最初の本格的な博覧会は一八七七年、東京・上野で行われた第一回内国勧業博覧会である。この時代の博覧会はいわば、強い統制力を持つ国家としての権力誇示の場でもあった。
 そして、一九七〇年の大阪万博。エポックメイキングなこの万博で、とりわけ前衛芸術家たちが掲げたスローガンは「『お祭り』としての万国博」であった。高度経済成長期を迎え、「消費こそ最高の美徳」とされたこの時代を象徴するスローガンであったといえるだろう。

 従来の万博でいずれも共通しているのは、「進歩」や「発展」を至上の価値とし、国家が民衆に最新技術の威容を見せつける、いわば「上から下へ」の万博であったという点である。
 しかし、愛知万博はこれらの万博とは様相を異にしている。従来の進歩史観とは違う万博のあり方、いわば「国家」による万博から「市民」による万博への転換が行われようとしている。主催者と来場者が極めて近い位置関係にあり、一体として創り上げる万博、いわば「横のネットワークでつながる万博」なのである。

 実際に足を運んでみると、最初に目に飛び込んでくるのは緑の残る会場に木造の建物、木造のグローバル・ループである。決して派手さはない。そこでは従来型の先進技術を誇る展示に加えて、古き良き日本が体感できる「サツキとメイの家」や、参加型のエコツアーが人気を博している。何か困っているとボランティアがさりげなく声をかけてくれる。

 「何か違うものがある」と感じる、この「何か」はいったい何なのか? そこに、この万博が「時代の鏡」として映し出している本質がある。
 その本質は何かを、愛知万博のキーワードともいえる「自然との共生」「グローバルとローカル」「市民参加」「ユニバーサル」「IT」という5つのテーマを通し、関連する識者の声を交えながら解き明かしていきたい。

キーワード 1「自然との共生」
〜「地球市民」としての主体的な関わりが求められる〜

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太陽光発電システム
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新エネルギープラントの解説パネル
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省エネルギー型廃水処理実証試験施設

 大阪万博のテーマは「人類の進歩と調和」であった。対する愛知万博のテーマは「自然の叡智」である。万博総合プロデューサーをつとめる泉眞也氏のアイデアは、テーマ「自然の叡智」を縦糸に、事業コンセプト「地球大交流」を横糸にした展開をはかるというものであった。

 「自然との共生」「環境保護」という考え方を万博の中心に据えたのは、愛知万博の大きな特徴である。すでに会場選定の段階から「自然環境の保護」が声高に叫ばれ、当初の予定会場が大幅に変更になるなどの紆余曲折があったこともよく知られている。

 この「自然の叡智」という壮大なテーマが決して看板倒れに終わっていない点に注目したい。たとえば、従来型の派手な企業パビリオンが人気を集めるいっぽうで、万博会場の省エネ・環境設備を見学し「循環型社会」が体感できるバックヤードツアーや、子ども向けの「キッズ・エコツアー」もまた、人気を博している。

 進む環境破壊のなかで、「このままではいけないのではないか、何かしないといけないのではないか」と感じながらも手をこまねいている人は少なくない。「自然の叡智」をテーマに据えた愛知万博は、こうした現代人の漠然とした不安感、危機感をうまく引き出し、明るみに出す「触媒」としての役割を果たしているといえるだろう。万博に足を運びさえすれば、「自然との共生」「自然環境の保護」を比較的手軽に疑似体験することができるのである。

 しかし、それらは来場者に「地球市民」としての感性を問いかけ、「主体性」を求めるものだ。「待っていれば与えられる」という従来型の展示パビリオンとは全く違う。

 泉氏は、今回の万博について、
「『何を見るか』ではなく『いかに見るか』が問われる万博である」
と強調する。すなわち、この万博を「楽しむ」ためには観客側も受身のままではいられない。もっといえば従来型の「主催者 VS 来場者」というシンプルな構造は崩れ、サービスの「提供者」と「受け手」が極めて近い位置に存在するようになってきている。
 泉氏は万博の反省点として、
「テーマに基づいた仕掛けはたくさん作ったが、やや作りすぎの感もある。テーマの本質をうまく『伝える』ためのコミュニケーションの工夫がもっと必要だった」
と振り返る。「参加者側の主体性」をいかに引き出していくかは、万博に限らず、現代のイベントにおける重要な課題といえるだろう。

泉眞也氏のインタビュー→

キーワード 2 「ローカルとグローバル」
〜国際化時代に見直される「ローカルな場」の意味〜

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愛・地球広場に展示した犬山祭の山車
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アフリカ共同館の展示風景

  愛知万博は「ローカルによって作り出されたローカルな万博」であった。本誌では郷土の伝統芸能「山車からくり」の継承者として万博に参加した伊藤博康氏の例を紹介しているが、地元の人たちの積極的な関わりが目立った万博であった。

 開催前、会場やコンセプトが二転三転するなかで、地元の人たちは万博に対して必ずしも歓迎の意を示していなかったという。しかし今では、誰よりも万博への関心が高いのは地元愛知の人たちであり、地元で盛り上げて成功させようという熱気を感じとることができる。

 それでは、東京に住む人たちにとって「万博」は何なのか? メディアやITの発達により、バーチャル体験が容易になったこの時代、万博にしても「行かなくてもわかる」時代において、あえて「場」に足を運ぶことの意味はどこにあるのだろうか?

 これに関して、アフリカ共同館などの展示にも深く関わった文化人類学者の和崎春日氏は、
「インターナショナルな時代だからこそ『トポス性』すなわち『場』が重要な意味を持ってくる」
と主張する。
「生きることとは本来、極めてローカルな場でのできごとのはず。これが自分勝手なエゴイズムになってしまうのではなく、エゴとエゴとが出会い、お互いを認め合うことが必要。それがグローバルな時代にあっての『普遍性』ではないか」

 ローカルな個性を喪失した万国共通の「漂白人間」になってしまうことがグローバリズムではないのだ。ローカルな個性の多様な集合体がグローバリズムのあるべき姿なのだ。
 歴史を振り返ってみると西欧諸国による植民地化はまさに「ローカルの軽視」でもあった。そのツケがまわってきているのが現代の国際社会である。飢餓と貧困、地域紛争、HIVをはじめとした疫病、難民問題……これらの原因をたどると結局、西欧諸国が押し付けた価値観、文化、言語、国境、すなわち「ローカル・ルールの無視」に行き着く。

 「地球市民」としての我々には、このツケをはらっていく義務があるし、「地球市民」としての視点から今一度「ローカル」の意味を考え直す必要がある。それが「自然の叡智」という縦糸に対して、横糸にすえられた「地球大交流」という事業コンセプトである。
 そして、ここから織り成されるメッセージを東京でもなく大阪でもなく、日本最大のローカル「愛知県」という場所から、地元の人たちの手によって全世界に発信するということに、本万博の大きな意味があるのだ。

和崎春日氏のインタビュー→

キーワード 3 「市民参加」
〜ボランティア・NGOの活躍が万博を支える〜

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北ゲート前で観客を誘導するボランティア・スタッフ

  今回の万博においてボランティア、NGOの活躍には目をみはるものがある。まさに「市民参加」を現実のものとした万博といえる。

 ボランティアに関していえば、万博開催前の応募予想数一万五〇〇〇人を大きく上回る二万四〇〇〇人(団体も入れると三万人)もの応募があった。開催中は1日3交代で、六五〇〜七〇〇名のボランティアが毎日活動している。ボランティア希望者には参加が可能な日と語学や手話、介助などのスキルを聞いたうえで、担当日をコンピューターで割り振っているが、直前のキャンセル率も15%と思いのほか低いのだという。また、全ボランティアのうち25%が60代だという。高齢者の元気さも特筆すべきことである。

 愛知万博のボランティアのコーディネイトを担当する天野由利子氏は、万博開催前、ボランティアセンターの設立当初から「主催者」と「ボランティア」の対等さにこだわってきた。

「ボランティアが『人件費の安いスタッフ』になってはいけない。博覧会として提供すべきサービス、全ての人に公平に提供すべきサービスは有償スタッフによってまかなうべきこと。これに対してボランティアは『やったほうがいいこと』を自主的にやる存在であるべきなのです」

 この考え方に基づき、愛知万博のボランティアセンターは博覧会協会の下部組織ではなく独立・対等の位置づけで設立された。また、「何をやるか」についてもボランティア自らが話し合い、ボランティアセンターが市民の意見を吸い上げることで決めていったという。

 もともとボランティアという言葉は英語でいうと「volunteer(志願者)」の意味である。このことからもわかるとおり、自分たちが今生きている社会、それを自分にとってもよりよい形に変えていきたいからやる、それがボランティアの最も健全な動機のはずである。
「ボランティアは決して聖人君子のものではない、『やりたいからやる』もの。また、ボランティア活動は『偉い』ことではなく『当たり前の』ことなのだ……万博でのボランティアの盛り上がりによって、この考え方が広く定着すればいいと思う」
と、天野氏は期待している。

天野由利子氏のインタビュー→(PDF・396KB)




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