【Cultivate Vol26 特集◎都市と文化環境】より

ミュージアム・マーケティング講座 第3回
マーケティング発想によるミュージアムの活性化

千葉商科大学政策情報学部長 井関利明 プロフィール
 



リレーションシップ・マーケティングの基本

 企業もミュージアムも、価値を創造するエージェントであり、場でもあります。生活をするものにとって、価値とは何かというと、新しい経験をし、喜びや楽しみや幸せを感じることなのです。そのときの顧客は、企業にとっては重要な資産であり、単なるビジネスの対象ではありません。そして、「すべての顧客は等質かつ平等ではありえない」のです。顧客を分けて考えることができれば、それぞれに異なった顧客は、企業にとって異なった価値を持つことがわかります。

 すると、企業にとってもミュージアムにとっても、差異化し、序列をつけたときに重要になる顧客をいかにつかまえるか、が大事になります。それには、3通りあるでしょう。

 まず、モースト・ヴァリュアブル・カスタマーズ。カスタマーズをオーディエンスといってもよいでしょう。ミュージアムの場合は、最も多額の寄付をする人になります。資金調達をするときに、非営利組織であるミュージアムは、大学と同じように、いかに寄付を集めて資金を調達するかがとても重要な課題となります。これは、マーケティングの主題で、別の機会にきちんとお話をしてもよいくらいの重要課題です。資金獲得はマーケティングにとって重要なことで、自社、あるいは自らのミュージアムをいかに上手に売れるか、ということだからです。魅力のないところに資金は集まりません。だから、いかにして魅力をつくるかが大事です。

 2番目は、最も頻繁にミュージアムを利用してくれる人です。現在、利用者はカード化されていますから、スミソニアンでは、何回訪れて、どんなイベントに参加し、レストランで何を食べてみやげ物に何を買ったかまでわかるそうです。ミュージアムに対する売上貢献者というわけです。

 3番目は、さまざまなアイディアや提言をしてくれたり、新しい客を連れてきてくれるような人です。この人の売上が小さくても、これは大事にしなくてはなりません。

 以上3タイプが、だいたい全体の20%と考えられます。このような人たちが、ミュージアムの80%の成果を担っているのです。このような人たちとの「関係づくり」が大事なのであり、それは企業でも同じです。つまり、お買い上げ金額の多い順に客を並べているだけでは、だめなのです。Aランクの商品は利益率が30%以上、Bランク商品は利益率が20%、Cランクは10%、Dは利益なし、というランクがあり、それを買った商品とかけ合わせたときに、利益率の高い商品を一〇〇万円以上買った人と、同じ一〇〇万円でも利益率ゼロの商品をいつも漁って買う人とでは、まったく違うということがわかるのです。ですから、来店者全部を顧客とみなしてダイレクトメールを打つなど、無意味なことで、そのようなムダが多いのが、日本の百貨店の現状ともいえましょう。

戦略的アライアンスの新展開を象徴する新しいキーワード本

図−3
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 「戦略的アライアンス」(図-3)の資料をご覧ください。ふつうは、コラボレーションとかアライアンスといいますが、一般的な言葉では「ストラテジカル・アライアンス」といっています。ストラテジカルとは、たとえばミュージアムが将来的にどんな方針や構想を立てているかというプランニングの話であれば、戦略的レベルになります。反対に、こういう展示会の場づくりをしてくれ、というレベルは、戦術的な話です。戦略的・戦術的なレベルにおいて、二つ以上の当事者にとって相互の利得が両立可能であるか、相互補完的な事業目標を持つような「関係づくり」が、アライアンスということになります。アライアンスは、目標において友好的な共有ができ、企業風土や企業文化が類似しており、情報と顧客を共有化できるという条件がそろってはじめて可能になることです。

 企業やミュージアムが、その使命や目標を有効に達成するために必要なコンピタンスやリソースにおいて不充分であり、他の組織と組むことによってそれを補うことができると、その下の図のようになります。たとえば、プレゼンテーションやプレエキジビションの技術をある企業が持っているが、残念ながらコンテンツはない。逆にミュージアムはコンテンツは豊富であるが、人を楽しませるノウハウや技術がない。そうなれば、そこに連携する大きな意味が出てくるのです。

 そのとき、もうひとつのノウハウを持たなくてはなりません。それは、どういうタイプのオーディエンスは、どういう期待を持って来館するのか、ということの把握です。そうすれば、このサイトをこのようにするのは、こういうタイプの人間がこのような期待を持ってやってくるからだ、と説明がつくことになります。

 アライアンスをめぐって、(図-4)にあるように、90年代に新しいことばが次から次へと出てきました。ビジネスの世界に、今までとは違う動きが出てきたのです。今までのビジネスは、単一企業が外部環境のひとつである市場に向かって、どのように合理的な意思決定をするか、という理論でした。変化する市場を顧客として引きこみながら、他の企業と連携して意思決定をするという理論は、どこにもありませんでした。それが、現在、世界中の多くのビジネススクールが困惑している理由です。単一企業が、市場の変化に応じていかに良い手を打つかという従来のビジネス理論からは、企業が連携して意思決定をし、顧客が参加してくる状況などは、説明のしようもありませんでした。現在では、まったく新しい企業理論が必要になっており、それはマーケティングだけができるのです。それは、一方で顧客との濃密な「関係づくり」をし、他方で他の企業や組織と戦略的な協働を組む「関係づくり」が中核となる、ということです。

 今までは、コーポレート・ガバナンスが語られてきました。これからは、「リレーションシップ・ガバナンス」が語られなければなりません。顧客や他の企業、地域社会や行政、ジャーナリズムとの関係をどのようにガバナンスするかという問題なのです。それについては、まだ誰も言及していません。それぞれの個別の「関係づくり」を部分的に取り上げているにすぎず、総合的なリレーションシップのビジネス・ネットワークがトータルに考えられていません。
 そのような新しい流れのなかで、新たなビジネス理論の可能性を示唆するコンセプトが次々と生まれてきました。たとえば、コ・オペティションということばがあります。これは、ネイルバフとブランデンバーガーが唱えたものですが、コーペレーション(協力)とコンペティション(競争)という二つのことばを合成した造語です。今までなら、競争のあるところに協力はなかったし、逆も同じでした。ところが現在は、協力と競争が同時に起こっているのです。今までは、同時に成立しないものを表すことばはありませんでした。それが、現在はごく当たり前になってきているのです。それを、競争を超えた新しい次元のビジネス間関係が生じているとして、トランス・コンペティションといっている人もいます。

 また、単に仕様書を書いて外注するスタイルのアウトソーシングもすでに終っているのです。顧客やクライアントのもとに出向き、相手を理解し、共に学ぼうとする意欲や姿勢がないような尊大な企業は、もうだめになります。つまり、クライアントとしてやってくる人に、どれくらい学びの姿勢があるかを見抜き、たがいに協力することが重要なのです。

 自組織のなかに資源もノウハウも人材もないから、外部に全部任せることをアウトソーシングというのに対して、双方で学び合いながら、互いの資源を上手に使って協同でビジネスをやっていくことを、コ・ソーシングといいます。一緒にマーケティングをやるのも、効果があります。とくに類似商品や顧客を共有している場合には、有効です。それをコ・マーケティングといったりします。実際に何が行われているかというと、コーペレーション、パートナーシップ、コラボレーション、コンソーシアムなどです。このように、新しいビジネスの形を表すことばが、次々と出てきています。

図−5
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 チャールズ・ハンディがいいはじめた、フェデレイテッド・エンタープライズもそのひとつで、企業連合体のことを表したものです。(図-5)ルイ・ヴィトンとヘネシーの関係などは、それぞれが独立しながらゆるい連携を持っているという点において、この事例です。資本やノウハウや顧客情報などを共有しているわけです。

 e-ビジネス・コミュニティというのは、インターネット上でネットワークを通じて企業連合ができているものです。同じように、ビジネス・ウェブといって、ビジネスが単なるネットワークを超えてクモの巣のように複雑に絡んでいるものもあります。

 最近、地域ごとによく見られるようになってきたものに、コミュニティ・ビジネスがあります。これは、行政と商店街とNPOと大学などが一緒になってやっていくもので、立場の違うもの同士が協力する共同体で、とても有効です。企業や行政の限界を補いながら、商店街や市民それぞれを活性化していく連合体です。私が常々いっている、コンテクスト・ビジネスも同じです。コンテクストをつくっておいて、さまざまなビジネス・プレーヤーを引きこんでくるのです。最近の事例では、森ビルや三井不動産がやりはじめた、不動産を証券化し、地主とマネージする人、ビジネスをする人、遊びに来る人など、立場の違う人びとの集う場づくりの例などがあります。異なる立場の人びとが集まると、ビジネス需要は自然と起こってくるからです。

 情報をオープンにする手法も、従来のマスメディアやインターネットを通じて行うほか、「オフ・ザ・サイト」の方法もあります。小さなエリアや拠点で接触の機会を計画的につくる、いわばデモンストレーション型です。プレゼンテーション・ツアーということもできるでしょう。
 また、リファーラル(Referral)・マーケティングも、これからは重要です。いわゆる口コミです。この究極が、インターネット上であっという間に広がってデモなどに発展してしまうヴァイラル(Viral)・マーケティングです。ヴァイラルとは、サーズのようなウイルスを意味しますから、同じ口コミでも、こちらはあまり建設的なものではないようです。

 繰り返しますが、そのときにあくまでも大事なのは、「共有された情報と価値」があることです。プロクターギャンブルとウォルマートのように完全なインフォメーション・シェアリングができていなければなりません。

 そこに出てくるのが、21世紀のビジネスを動かしていく大きな潤滑剤なのです。それが、トラスト(信頼)です。20世紀の通貨はマネーであるが、21世紀の通貨はトラストである、といわれています。それぞれの信頼がどのようなもので、どこに生まれるのか。一緒に学び、ともに変化していくことの前提がないと、連携や協働は生まれません。その前提がきちんとあれば、そこには新しい需要イノベーションが生まれるのです。

 ミュージアムの活性化のために、新たな視点から考え直すときが来ているようです。ミュージアム・パラダイム転換の季節です。


今回の掲載内容は、独立行政法人国立科学博物館(以下、科博)と(株)乃村工藝社による共同研究「博物館運営改善のためのマーケティング調査の方法論に関する研究」の一環として、平成16年1月に行われた井関氏のご講演を元に作成しております。この共同研究では、科博におけるターゲット・オーディエンスを把握することを目的としたインターネット調査・分析を行いました。
 
 この研究結果についてのご意見・ご質問は、こちらまで。
 (株)乃村工藝社:森 美樹
         (miki_mori@nomurakougei.co.jp
         鈴木 和博
         (kazuhiro_suzuki@nomurakougei.co.jp



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