【Cultivate Vol27 特集◎アメリカのチルドレンズ・ミュージアム事情】より
(財)つくば科学万博記念財団理事 倉本昌昭 (財)つくば科学万博記念財団参事 許斐修輔
プロフィール
インタビュー/高橋信裕
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| お父さんと一緒にモノづくりをするコーナー (ポート・ディスカバリーCM) |
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| ガソリンスタンドの仕事を体験(ポート・ディスカバリーCM) |
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| バスの展示で遊ぶ子どもたち (プリーズ・タッチ・ミュージアム) |
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| シカゴCM |
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| 巨大なジャングルジム(ポート・ディスカバリーCM) |
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| 「不思議の国のアリス」の登場人物たちとお茶会 (プリーズ・タッチ・ミュージアム) |
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| スーパーのレジを体験(プリーズ・タッチ・ミュージアム) |
高橋―アメリカの場合、チルドレンズ・ミュージアムが独自に財政的な安定性を確保しなければいけないということですが、公的な資金が潤沢に投入されるわけでもありませんし、財政的健全性は保たれているのでしょうか。
許斐―各館がいろんな活動をするときには、ファンド・ビフォー・ビルド、つまりなにかを始める前にまず資金の確保という言い方をされていました。アメリカ的な特徴だと思いますが、各館が非常に厳しい競争原理のもとで事業を展開しています。チルドレンズ・ミュージアムに限らずミュージアム全般が非常に小さな形で発足して、その後いろんな形で資金を確保することによって大きく成長していく。これは、シカゴやインディアナポリス、ボストンも同じだそうです。
そして資金獲得のためには、使命観や理想、ヴィジョン、自分たちはこんな素晴らしいことをやるのだということを常にアピールしなければいけない。将来計画を示す模型があるというのはまさにそれで、自分たちの理想を常にアピールして資金を獲得し、生き残っていく。そうした競争条件下で切磋琢磨してきた結果が、現在の姿なのだと思います。
どの館も決して潤沢な資金があって左うちわで運営できるわけではなく、自分たちが生き残るために大変な努力をしている。館の理想、ヴィジョンを素晴らしいものにすることが、同時に資金の確保につながる。そういうプラスの循環が働いているのが、アメリカのミュージアムの状況だと思います。
倉本―チルドレンズ・ミュージアムは1980年代以降、急激に増加しますが、その時期からこれまでの古い館を拡張する館も急激に増えているんです。各館が将来に向けて、どのようなヴィジョンを持って館を拡げていくかということを常に考えている。拡げていくアイデアと同時に、館長は必要な資金集めを常に考えている。それも国や州政府に申請するのではなく、地域の企業や篤志家をまわって集めるというのが中心のようです。
高橋―日本の場合は、児童館がチルドレンズ・ミュージアムに比較的近い施設にあたるかと思います。しかし根本的に違うのは、日本の児童館が行政の基準に沿って全国一律でつくられているのに対して、アメリカのチルドレンズ・ミュージアムは企業の経営者のような人が館長になって独自に資金の調達も行います。日本ではなにか公的なことをするというと、ついつい行政に期待してしまいます。
許斐―児童館は一見、チルドレンズ・ミュージアムと似ているのかもしれませんが、基本的な考え方は違います。児童館はあくまでも子どものための施設ですが、チルドレンズ・ミュージアムは、チルドレンという名前が付いていたとしても、子どもだけのための施設ではないのだと思います。子どもを取り巻く環境をより良くするために、親が子育てをする状況をいかに良くするか。そこにポイントがあると思うんです。
日本の児童館では、子どもを遊ばせながら知識をあたえるという意味での学習はあるかもしれませんが、親の子育ての問題にまでは踏み込んでいないのではないでしょうか。
高橋―青山の「こどもの城」という施設では、プレ・スクールの子どもたちが父兄と一緒に利用している状況が垣間見られます。
倉本―日本でも幼稚園や保育所とは別に、「こどもの城」や「キッズ・プラザ」など、いろいろな施設ができてきてはいます。しかし、日本の場合には、行政の問題があります。例えば、幼稚園は文部科学省の所管ですし、保育所は厚生労働省の所管になりますので、これをひとつにする際にはいろんな問題が出てくる。チルドレンズ・ミュージアムをつくるときにも、その辺りが問題になるかもしれません。
高橋―アメリカの場合、根本的に違うのは、こうした施設に対するニーズを掘り起こして立ち上げるのは行政ではなくて地域の住民です。地域住民がボードをつくって、寄付金を募り、組織もお金も人もまかなっていく。そうした文化的な背景が、日本ではまだまだ熟成されていません。
許斐―現代の日本の社会状況をどう考え、改善するためにはなにが必要なのか。そうした視点からニーズがあれば、状況はまた変わってくるのかもしれません。アメリカでは、あまりネガティブなこと、つまり、こんな問題があったからこういう施設をつくったとは決して言いません。しかし、アメリカ社会のいろんな問題点を緩和するという側面があったことは間違いないと思います。そのためにチルドレンズ・ミュージアムがどう機能するのかということです。そういうニーズがあったからこそ、そういう施設ができてきたのだと思います。
高橋―アメリカでは、学校外での教育環境を社会でつくっていこうとしています。勉強が嫌いで学校に行かない子どもがいる一方、学校教育の程度の低さに父兄は不満を持っています。ですから、自分で家庭教師を雇って子どもに高度な教育を受けさせる。学校外の教育を行うホーム・スクーラーというグループがあるのですが、それに対して博物館や美術館、チルドレンズ・ミュージアムはどのように関わり、サポートできるのか。学校教育以外の社会教育機関がホーム・スクーラーをサポートするという取り組みでも、ニーズにきめ細かく対応する。そういう精神がアメリカにはあるように思います。
日本では、社会的な枠組みをつくって、その枠組みに入らない人は排除される。排除された人を受け入れようとする姿勢、ソーシャル・インクルーディングという精神が少し乏しいように感じます。アメリカでは、人のためになにかやらなければいけないという精神が漲っています。
倉本―その辺りが、日本にチルドレンズ・ミュージアムが定着する際に大きな問題になるかもしれません。もともとアメリカのチルドレンズ・ミュージアムは所得が低い家庭の子どもがターゲットでしたが、だんだん状況が変わり、いまは裕福な家庭の子どもをターゲットにした施設もできている。これだけチルドレンズ・ミュージアムが増加したのには、そうした社会的な考え方の変化が影響しているのではないでしょうか。いわゆる学校などでやるフォーマル・エデュケーションに対するインフォーマル・エデュケーションの重要性が、社会的に高まっている。日本では、教育と言うと学校教育ですが、アメリカは学校以外に美術館や博物館などの施設を活用して、学校の教育基準から離れた形のいろんな社会教育の在り方が模索されている。教育基本法も含め、教育に対する国の考え方を少し考え直さなければいけないのだと思います。
高橋―学校教育も大きな改革の時期に来ていますが、日本では社会教育に関しても大きな改革の時期が差し迫っているということなのでしょうね。どうもありがとうございました。