【Cultivate Vol27 特集◎アメリカのチルドレンズ・ミュージアム事情】より

米国チルドレンズ・ミュージアムのマネージメント・システムに学ぶもの

AAM(全米博物館協会)シニアマネージャー エリック・レドベター(Erik Ledbetter)
ACM(全米子ども博物館協会) ジャネット・ライス・エルマン(Janet Race Elman)
インタビュー/高橋信裕



将来のビジョンを明確にして運営資金を調達する

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ハリケーン・カトリーナの被災者への義援金の募金箱
(インディアナポリスCM)
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幼児と親の特別の部屋(ボストンCM)
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特別の部屋には靴を脱いで入らなければならない
(ボストンCM)
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自由に持ち帰ることができる子育て関連資料シート
(プリーズ・タッチ・ミュージアム)
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保護者向けの情報コーナー
(プリーズ・タッチ・ミュージアム)

高橋―続いてエルマンさんにお話を伺います。まず、ACMの活動概要からお聞かせください。

ジャネット・ライス・エルマン
Janet Race ELMAN

エルマン―ACMは、科学博物館をはじめ、家庭や家族にサービスする博物館を対象にしています。現在、メンバーは275館に上っており、その大半はアメリカ国内ですが、ネットワークは世界中に広がっています。ACMは、これらのメンバー館からの相談にのっています。事務職員8名の小さな所帯ですが、その分、対応が早いのが特徴です。例えば、先日ミシシッピーを襲ったハリケーン「カトリーナ」では、ニューオリンズとミシシッピーの2館のチルドレンズ・ミュージアムが被害を受けました。ACMでは早速会員館全てに連絡を取り、資金集めや援助に貢献しました。現在のACMの活動優先順位は、一番が災害援助、二番目がメンバー館への対応になっています。目の前の課題にできるだけ早い対応が望まれているのです。
 また、財政難で閉館されようとしたチルドレンズ・ミュージアムをACMが救ったこともあります。オランダのアムステルダムにある「キンダーミュージアム」は、閉館される予定だったのですが、アメリカからオランダの文化庁に運営継続の要望書を送った結果、予算がついて運営が続けられることになりました。

高橋―ACMは、年次大会など組織のアドバンテージ的な活動も活発にされているのですか。

エルマン―ACMは会員制で、年に一度大会を開催しています。2006年の年次大会はボストンで予定されており、4月24日〜26日の3日間開催する予定です。チルドレンズ・ミュージアムの概念はアメリカより起こったという誇りと伝統がアメリカにはあります。実は、チルドレンズ・ミュージアムは「親の教育」に配慮しており、情報は親向きに用意されています。子どもとともに親の教育に役立つように計画されているのです。
 そして、もうひとつの役割に「教師への教育」があります。いじめ問題を解決するとともに、教師を対象としたプログラム「皆を尊敬しよう(Respect for All)」にも取り組んでいます。ウェブサイトにも、"respect for all.org"として公開しているので参考にして欲しいと思います。さらに、社会福祉面での役割も担っています。フィラデルフィアのプリーズ・タッチ・ミュージアムは7歳以下の子どもたちのための新館を計画中ですが、場所は低所得者層地域を予定しており、裁判所と連携した活動がユニークです。家庭争議を抱える大人たちが家庭裁判所を訪問するあいだ、子どもたちは裁判所に出向いたチルドレンズ・ミュージアムの職員と交流するプログラムが立てられています。チルドレンズ・ミュージアムのアウトリーチ活動の一環ですが、このほか「子ども病院」に職員が出向いて、入院中や外来の子ども患者と交流体験するプログラムも用意されています。
 ロードアイランド・プロビデンスというチルドレンズ・ミュージアムは、離婚した両親のうち養育権のない親が子どもとの対話、交流を行う場として利用されています。そこでは、社会福祉の職員とチルドレンズ・ミュージアムの職員が立会って、チルドレンズ・ミュージアムの職員は、親に子どもへの態度や振舞い方を伝え、いい手本となっています。また、10代で母親になった女性へのプログラムが成功を納めており、これは資金源である企業や篤志家にアピールし、資金集めでも成果を納めています。

高橋―アメリカの博物館は行政からの予算で賄われることが少ないということですが、採算があまり期待できないチルドレンズ・ミュージアムでは、資金はどのように調達され賄われているのでしょうか。

エルマン―アメリカでは、政府が博物館に補助金などで手を差し伸べることはありません。館から申請することで、そのチャンスにあずかる場合もありますが、多くの場合、NSFに補助金申請をして、資金調達をしています。ボストン・チルドレンズ・ミュージアムもそこから資金を得ています。ACMでは「フリーマンファンデーション」という財団(アメリカの家庭にアジアを知ってもらうことを目的とする財団)から資金提供を得たことがあります。「アジアの文化を学ぶ」といったテーマの巡回展に700万ドルの資金を獲得し、7館が巡回展会場に選定されました。そのうち2館が日本をテーマに取り上げています。
 資金集めは、最初は地域の有志が小さなグループを組織して、非営利団体の手続きを取ります。次に役員会を設置します。役員はそれぞれ資金集めの人脈を持ち、戦略計画を立案します。そして、資金集めのために専門職員(コーディネーター)を雇用します。このコーディネーターが将来の館長です。将来の館長は日常の業務をこなすとともに、博物館の夢を語り、資金づくりに立会い、職員の人選にも従事するなど多忙を極めます。
 次がフィジビリティ・スタディ(FS)になります。FSには2種類あり、ひとつは運営に関するもの。つまり建築規模、予算規模、経営の収支予測などで、もうひとつが資金集めの可能性についてのものです。地域の所得水準、企業の本社の数、その規模、財団の数などから資金調達の最終ゴールを予想します。FSは、専門のコンサルタント会社に依頼することもあります。
 こうした手法を採った事例に、フィラデルフィアの新しいチルドレンズ・ミュージアムがあります。そこでは、6300万ドルの数字がはじき出されました。ワシントンDCでも、ショッピング街のランファントプラザに国立のチルドレンズ・ミュージアムが計画されています。シーザーペリの設計によるもので、1億2000万ドルの一大プロジェクトです。イリノイ州のシカゴ市郊外グレンビューに、2005年の10月16日にオープンしたコール・チルドレンズ・ミュージアムは8歳以下の幼児を対象にしたミュージアムで、地域にあった4万5000平方フィートの建築規模と2万4000ドルの資金獲得を目標にしています。ウィスコンシン州選出の上院議員が中心になって推進していますが、現在までの資金調達は予定の額に届かない2万1000ドルにとどまっており、不足分は銀行からの借金で賄っています。資金調達が予定額に達する前から、建設に動き出しているのです。
 建設資金獲得後、オープンしてからの運営資金源は、大きくふたつに分けられます。ひとつはミュージアムの入場料、ショップ、カフェ・レストラン、バースデーパーティなどのスペース・レンタルの収入です。もうひとつは、政府からの助成金や民間の財団からの補助金と個人からの寄付金です。民間の財団からの補助金のなかには企画展など使途を定めた条件付のものがあり、これはミュージアムにとって間接的な収入となります。補助金のうち20〜25%は間接的なものとして計上されます。博物館では、寄付金獲得のため「資金集め大会」を随時開催しています。

地域主導の活動で子どもに安全な環境を提供する

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広い展示スペースが特徴(ポート・ディスカバリーCM)
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子どもを遊ばせながら親同士が情報交換をする
(ポート・ディスカバリーCM)

高橋―今後もチルドレンズ・ミュージアムは増え続けていくのでしょうか。

エルマン―現在、アメリカでは80館のチルドレンズ・ミュージアム計画があります。資金は平均して1館1410万ドルを目標にしており、各館で資金集めキャンペーンが盛んに行われています。80館が必要とする予算額の合計は約10億ドルにものぼり、資金集めには以前はジュニアリーグなどがあたっていましたが、現在では専門家が中心となってキャピタル・キャンペーンを展開しています。専門家とはミュージアムでの館長クラスの人々です。
 資金は、個人の資産家や財団、企業などから寄せられます。州政府からも寄せられますが、額は少ないものです。目標額が1400万ドルとすれば、100万ドル位で、1/10以下が普通です。主なターゲットは50万ドルから100万ドルの大口を出資する篤志家です。そうした篤志家は、ミュージアムの入り口に寄付者として名前が掲げられ、顕彰されます。
 民間では、クラブディズニーの全国展開が失敗して話題になりましたが、原因は金銭的なものでした。チルドレンズ・ミュージアムで利益をあげるのは難しいのですが、本当の意味での成功の評価は来た家族が本当に楽しんでくれたかどうかです。黒字への努力はしなければなりませんが、収益が主ではない。このクラブディズニーの失敗がその後のチルドレンズ・ミュージアムの在り方に強く影響しています。ACMでは、チルドレンズ・ミュージアムの収支データを集計し、報告書としてまとめています。

高橋―チルドレンズ・ミュージアムを支える大切な存在に館で働くスタッフがいます。ミュージアム職員の処遇状況はいかがですか。

エルマン―職員の収入レベルは、一般企業の職員に比べて低額です。幼児教育に携わっている人々、非営利の団体職員、アートや芸術の関係者も同様に低所得です。チルドレンズ・ミュージアムの館長クラスの年収は、8〜10万ドルくらいが一般的ですが、ボストンやシカゴなどの大型施設の館長は20万ドル程度の年収があります。大規模館の館長の前職は、民間の企業人の場合が多いのですが、そうした人を館長に据えるには前職と見合う処遇の保障が求められます。また、そうでなければいい人材は集まりません。例えばシカゴのチルドレンズ・ミュージアム館長のピーター・イングランド氏はエリザベスアーデン社の元社長(CEO)であり、その顔の広さから資金集めに多大な貢献をしています。博物館は非営利団体のため、役員は基本的には無報酬(名誉職)ですが、館長は有償です。館長の名称は民間企業であればディレクター、非営利団体であれば、ボードメンバー、トラスティ、チーフスタッフ、エグゼクティブ・ディレクター、CEO、プレジデントなどが使用されます。プレジデントは、ボードの議長を指すこともあり、この場合は館長ではなくなります。

高橋―職員採用には特別な資格が必要とされるのですか。

エルマン―職員の専門的スキルについては、教育関係者は博物館教育のコースを持つ大学院で「ミュージアム・リーダーシップ」という修士号を修得したスタッフが採用されます。展示関係者には建築業関係者や玩具業界の経験者が多くいます。案内係には、店員経験者を採用する事例が見られます。大学等の高等教育機関との連携ですが、シカゴ・チルドレンズ・ミュージアムは、シカゴのエリクソン・インスティテュート(教育学の大学院を持っているので有名)と共同で展示の標準化を行っています。それらの内容は、エリクソン・インスティテュートのウェブで取り出すことができます。

高橋―最後に、アメリカのチルドレンズ・ミュージアムの今後の展開についてお聞かせ下さい。

エルマン―1980年から1990年にかけてチルドレンズ・ミュージアムは増えていきましたが、その牽引力となったのは「ジュニアリーグ」と呼ばれる30歳から50歳代の女性たちのサークルで、彼女たちが積極的に推進したのです。そして90年代以降は、親や保護者たちからコミュニティのリーダーたちに移っています。近年目立つのは、チルドレンズ・ミュージアムを家族の学習の場として楽しむ「ファミリー・ラーニング」のスタイルが確立してきたことや玩具などのポップ(ポピュラー)カルチャーをコレクションするミュージアムが出てきたことです。それはイギリスなどで、例えば昔の玩具を使い、異世代間の交流を促進することで、同時に一種の療法的な成果をあげている活動などが背景としてうかがえます。そうした点で、インディアナポリスのチルドレンズ・ミュージアムは、玩具のコレクションを持つ数少ない例として注目されるでしょう。ポップカルチャーと呼ばれるジャンルがチルドレンズ・ミュージアムのコレクションになろうとしています。
 展示空間のデザインで言えば、小部屋形式に独立させた空間構成から大空間を基調にした構成へと変わっています。乳幼児用の場を特定の閉ざされた箇所からオープンな空間に分散するようになってきているのです。チルドレンズ・ミュージアムを利用する親は、複数の子どもを連れてくるのが普通です。大きな空間をそれぞれ柵などで仕切れば、親は連れてきた子どもたちを1ヵ所で相手にし、監視することができる。その便利さが親たちに受けるのです。コール・チルドレンズ・ミュージアムは、まさにこのトレンドを体現しています。
 チルドレンズ・ミュージアムの計画についてはマニュアル本まで出版されています。加除式タイプのもので、ビジョン、ガバナンス、建築家の選択、教育計画、展示手法、職員配置などが網羅されています。また、ウェブサイトに「CMを訪問しよう」も設けられており、世界のチルドレンズ・ミュージアムにリンクすることができるようになっています。

高橋―ありがとうございました。




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