【Cultivate Vol28 特集◎21世紀、ミュージアム・タウンの創造と展望】より
Kotler Cultural and Museum Marketing Consultants代表 ニール・コトラー
プロフィール
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| ゲッティ・ミュージアム * |
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| フィラデルフィア・ミュージアム・オブ・アート * |
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| ミルウォーキー・アート・ミュージアム * |
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| グッゲンハイム・ビルバオ・ミュージアム * |
近年、科学博物館や子どもミュージアムは、非常にさまざまな活動やサービスを提供し、魅力的な文化教育施設へと劇的に変化しています。知的なウエブサイトの開発も大きな要素で、ウエブサイトの利用時間は、実際の来館時間をはるかに超えています。調査では、ウエブサイトの充実で実際の来館率が低下することはないという結果も出ています。
ネット体験はミュージアムにおける経験の枠を広げると同時に、「生身」のミュージアムとネット・ミュージアムの距離を確実に広げつつあります。ミュージアムは特定の場所に固定されていますが、ネットではリンクをつたいさまざまな文化施設やレジャー施設、ネットワークへ移動することが可能です。ネット上ではミュージアムが本来的に持つ、芸術性や審美性、コレクションが大切になるのです。本物とコピーや贋物の区別はありませんから、ネットでは実際のミュージアムのような五感に訴える審美性は提供できません。
次に、ミュージアムを変革しているのが建築です。ミュージアム建築の美しさと芸術的価値が多くの人の関心を呼び、誘客の大きな要因になりつつあります。館は自治体や政府の援助を得て、高尚な建築物に投資し、誘客を図っています。イタリア人デザイナーのレンゾ・ピアノは、ジョージア州アトランタにミュージアムと商業施設、カルチャー・センターの複合施設をつくり、建物の形状や機能、美しさで評判になりました。
リチャード・マイヤーが設計したロサンゼルスの「ゲッティ・ミュージアム」は、海を望む丘の上にあり、美しいロケーションに加えて、エレガントな庭園が館を彩ります。人々はここに建物や庭園、景観の美しさ、コレクションを観に来るのです。「フィラデルフィア・ミュージアム・オブ・アート」などの伝統的な建築も、その美しさから見直されています。「ミルウォーキー・アート・ミュージアム」の建物は、地元の街や住民を反映したデザインで、ひとつのブランドとして定着しています。外観だけでなく、内装や半屋外のオープンスペースも素晴らしいものです。人々は以前にも増し、活気のある空間デザインを求め、ホールや屋外スペース、庭園、テラス、ベランダなど、館内の至る所に美しさを求めています。ミュージアム建築は、専門家だけでなく、一般の人たちにとっても、身近な鑑賞対象となっているのです。
スペイン・ビルバオの「グッゲンハイム・ミュージアム」は、ミュージアム界の革命でした。フランク・ゲーリーがデザインしたこの建物は、屋根がチタン仕上げで、光を反射して非常に贅沢な存在感を放っています。来館者の多くは、この館のコレクションより、建築に関心があるのです。グッゲンハイムは、一時衰退していたビルバオの街を一級の観光地として復興させました。
オックスフォードやパリなどの歴史的街並みは、これまでも観光客を惹き付けてきましたが、今はレストランやショッピングも楽しめ、パフォーマンスや建築、庭園、歴史・文化スポット、ミュージアムも楽しめるアウトドア型のミュージアムとして認知されています。こうした街は、他のミュージアムとは異なり、正統派の芸術と大衆文化がうまく融合しており、観光客と地元の住民が一緒に楽しめるのです。
オンライン・ミュージアムと同様に、ミュージアム建築も現実のミュージアムとは一線を画しています。ミュージアムは今でこそ広く一般に開放されていますが、過去においてはどこか隠れ家的な雰囲気がありました。情報提供の不足などもあり、以前は大衆を拒絶するような建築デザインが多く用いられましたが、現在は一般大衆に向けてデザインされています。ミュージアムはより親しみやすくなり、来館者をもてなすための環境が整ってきたのです。しかしながら、こうした状況は、新たな問題も浮き彫りにしました。インターネットや建築物を観に訪れた多くの人を、今後いかに展示やコレクション、企画イベントへと誘客し、リピーターへと変えていくかということです。
広告やパブリシティ、テレマーケティング、営業、口コミなどのプロモーションも重要なマーケティング手段です。マーケティング担当者は顧客のニーズや関心に合ったプロモーションを企画し、メディア広告がターゲットに確実に届くようにしなければなりませんし、広告の内容も顧客にとって有意義な情報となるようにデザインします。特に会員や寄付者にとって、社会性は重要なファクターです。こうした顧客はミュージアムを通じて社会を見たいと欲し、また社会に見て欲しいと思っています。講座やツアー、スタジオ・アートなどの機会に、人との出会いや付き合いを求めているのです。プロモーションの重要性は、ミュージアムを通じて社会とのつながりを認識してもらうことにあるのです。
さらなるプロモーションの使命は、ブランド・アイデンティティの確立です。ブランドには、物財やサービス、経験などを通じた高い品質と、価格を上回る利便性が求められます。顧客の利用するあいだの品質を保証するためにも、品質の劣化によるブランド力の低下は防がなければなりません。ブランド・アイデンティティとは、単なるシンボルやロゴではなく、ブランドは常にリニューアルしなければ色あせてしまいます。ブランドが認知されたミュージアムは、市場において高い競争力を発揮することができるのです。
流通は、3つ目のマーケティング・ミクスの構成要素で、ミュージアムが発信する情報にアクセスしやすくしたり、来館までの心理的なハードルを低くしたりします。情報や利便性は来館の決め手ともなりますから、ウエブサイトや電話、ホテルや観光拠点に設置されたパンフレットなど、多くの場所から情報を入手できるような配慮が大切です。航空会社が発行する機内誌などで、地元のミュージアムの特集記事を組むのもいい取り組みです。シカゴのオヘア空港のなかには、フィールド・ミュージアムのミニ展示ブースやショップが設けられています。
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| メトロポリタン・ミュージアム * |
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| スミソニアン協会アメリカン・インディアン博物館 * |
4つ目の要素は価格です。米国においては、膨れ上がる運営コストを補うため、入館料が上昇しています。ニューヨークの「メトロポリタン・ミュージアム」の入館料は、20ドル(大人料金)にまで上がりました。加えて、同館は来館者から寄付を募っています。ミュージアムの入館料は、スポーツ・イベントや映画、テーマパークに較べると安いかもしれませんが、あまり足を運ばない層にとっては気になります。入館料が上がれば、低所得層や学生の来館機会はますます遠のきます。
入館料は、顧客の多くがミュージアムに期待する価値より低く設定しなければなりません。価格と価値は比例し、価格には入場料に加え、食事やショッピング、特別展の別料金、劇場の有料ショーなども含まれます。館側から見た場合の価値は変幻自在で、価値を上げても価格を下げることはできますし、価値と価格を同時に上げることも、同時に下げることも可能です。
ミュージアムのスタッフも要素のひとつで、誘客のポイントにも来館者のクレームのもとにもなり得ます。最前線で働くスタッフは、来館者を楽しませることも、不快にさせることもありますし、充分な知識を身につけた者も、そうでない者もいます。スタッフの印象は来館者の心に強く残りますから、キューレターや美術補修員、教育担当者の教育ばかりでなく、警備スタッフなどの教育にも力を入れている館もあります。
戦略的マーケティングの最終段階は、マーケティング・プラン全体のコントロールで、運営の責任者によって管理されなければなりません。プランの運営に何か問題が起こった場合、それは計画自体に現実性がなかったことが原因かもしれませんし、実施段階で間違いがあったのかもしれません。いずれにせよ、計画段階と実施段階の両方において、何らかの軌道修正が必要になります。
ミュージアムが高い品質とサービスなどを提供するためには、資金と資材が不可欠です。多くの米国のミュージアムの資本源は、大きくは事業収入、個人による寄付・献金と法人によるスポンサーシップ、政府助成金、寄付金を元本とした運用利益の4つに区分されます。1989年から2002年にかけての米国ミュージアム業界では、事業収入は30・4%から29・8%へわずかに減少し、収益全体の約3/1程度で安定しています。個人献金・寄付は18・9%から34・7%へと急増しましたが、個人献金比率の上昇は政府助成金、援助金の減少と反比例しています。政府助成金は39・2%から25・4%に減少しており、献金を元本とした運用利益は11・5%から10・6%へとわずかに減少していますが、比較的安定しています。
事業収入は、会員制度や施設設備のレンタル事業、絵画や造形物の版権事業、物販・飲食事業、特別企画展、劇場収入、カタログ販売、入館料収入などさまざまですから、資金調達の優先順位をあらかじめ設定しておくことが重要です。個人献金・寄付はミュージアムと寄付者の複雑な関係性によりますが、それぞれの寄付者からどのレベルの寄付・献金を引き出すのかを事前に決めておく必要があります。日頃の寄付の内容を分析し、寄付の調達に要するコストを算出した上で、寄付者集団を細かく分類して多角的に運用するのです。調達を成功させるためには、目標を明確にし、長期的に取り組まなくてはなりません。
他のミュージアムや文化団体との連携は、事業収益をより確実にします。例えば、不要なコストは抑えることができますし、会員は提携施設に無料で入れるというサービスで新規会員を増やせば、新たな収入源の確保にもつながります。スミソニアン協会は、2006年には世界146の館とパートナーの提携を結んでいます。スミソニアンには1億3600万点もの収蔵品があり、そのほとんどが倉庫に保管されていましたが、ここ10年間で7000点をパートナーに貸し出しています。借りた館は、スミソニアンに対して年間ベースで誠意ある対価を支払います。
提携プログラムは相乗効果をもたらし、お互いの社会的な認知や評判を高め、会員数を増やし、収入を押し上げます。スミソニアンは、全国的に評価の高い雑誌を発行して提携メンバーに配布していますが、発行部数が増えるにつれ広告収入も増加し、スミソニアンのイメージを高めて誘客にもつなげています。提携プログラムはスミソニアンの人材をうまく活用し、必要な人件費も提携事業費から捻出しています。
2003年には全米のミュージアムからサンプルを抽出し、経費項目の詳細が報告され、施設整備や警備、メンテナンス人件費などの一般総務費が41%、事業関連費が55%、資金調達費が4%で、資金調達費が増え続けている実態が明らかになりました。経営難に直面した館のなかには、経費の半分近くを占める人件費を削減するためにリストラに踏み切った館もありました。ミュージアム運営にかかる支出は、来館者収入と来館者一人当たりにかけるコストの比較から明らかになります。一人当たりのコストが収入を上回る場合、状況は深刻です。2002年のサンプル調査では、一人当たりの収入が5ドルだったにもかかわらず、コストは21ドルで大きく上回っていました。同じく2006年のサンプル調査では、13%の館が経営危機に直面していることが明らかになりました。
ミュージアムは営利組織ではありませんが、収支のボトムラインは守らなければなりません。経営難では結局、事業規模の縮小やリストラなどを迫られますから、ある程度の自己資金を蓄えておくべきです。拡大する施設設備や人員のために、収入が経費支出と見合わない館もあります。そこで、コストを抑えるために、アウトソーシングをうまく活用する館が増えています。ミュージアムの事業領域外の業者と組む時には、メリット、デメリットの両方に留意しなければなりませんし、ミュージアムの中枢である学芸員機能や補修機能については特に慎重に検討しなければなりません。また、アウトソーシングをする場合には、従業員の意見も積極的に収集し、業者と従業員のあいだに前向きな関係性を構築するように配慮すべきです。経費管理の柔軟性や専門家との連携、先進技術の導入、収支的に健全な運営などがアウトソーシングのメリットで、デメリットには外部業者への過度の依存、経理の複雑化、業者との関係管理、業者を鞍替えする際のコスト、長期的にはミュージアム側のノウハウの損失などがあげられます。
財政の安定を図りながら、真摯に学術探求と展示、エンターテイメント・プログラムを実践することは可能だということに、多くのミュージアムが賛同しています。確かに、プロフェッショナリズムと市場原理を並行してバランスを取ることは、容易なことではありません。これまでは学芸員や寄付者、教育者が展示内容やデザインを決定してきましたが、昨今のエデュテイメントの風潮で、専門家も社会的関係性やコミュニケーション、人材のマーケティングなどについて責任を負うことを求められています。時には経営陣の手足となって働かなければならないケースも生まれ、これが専門家意識を困惑させ、労働意欲を減退させ、成果にも支障をきたすこともあるかもしれません。顧客満足を追求するミュージアム事業者は、対処療法ではなく、常に事前策を講じなければならないのです。戦略的なマーケティングを実践するそれぞれの過程に応じて次の手を打つのです。顧客の反応やニーズには滞りなく応え、組織内の調和を図りつつ顧客へアプローチすることが、良好な運営の秘訣なのです。
ミュージアムは専門家主導であるべきか、顧客主導であるべきか、またはその組み合わせであるべきなのか。強い支持を獲得し、顧客とミュージアム双方のニーズを充たすには、どのように事業ミッションと提供財を設定すれば良いのか。オンライン体験や建築への関心の高まり、アウトドア志向の高まりで、客離れを起こさないか。自館における顧客の体験を入念に準備して、顧客のニーズに応えているのか。こうした課題は、ミュージアムの将来を拓く鍵になりますから、ミュージアムの運営者はたえず検証していかなければならないのです。