【Cultivate Vol28 特集◎21世紀、ミュージアム・タウンの創造と展望】より
金沢21世紀美術館館長、大阪市立美術館館長、金沢市助役 蓑豊
プロフィール
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| 金沢21世紀美術館 |
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| 南側外観 左は託児室 |
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| 美術館ホワイエ |
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| 美術館北西側アプローチ |
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| 東口ホワイエ |
「金沢21世紀美術館」は子どもたちがたくさんいる美術館として非常に評判になっており、国内外の報道関係にもたくさん取り上げていただいています。2004年10月にオープンしましたが、「子どもと一緒に成長する美術館」を大きなミッションとして掲げ、今はそれがようやくよちよち歩きを始めたところだと思います。開館1年目の入館者は約157万人、2年目は約120万人と大勢のお客様にいらしていただきましたが、みなさん当館を訪れると館内に子どもたちがたくさんいることに驚かれます。
私は、子どもたちと付き合ううえで、まず「正直であること」「本物を子どもに見せること」「子どもに対して絶対にごまかしをしてはいけないこと」、この3つの原則を非常に大切にしています。ただ子どもを呼べば良いという発想では、子どもたちは必ず飽きてしまいます。やはり、子どもの時に本物を見た感動は一生忘れませんから、今の子どもたちに何とか本物とふれ合う感動をあたえたい。金沢21世紀美術館はそうした気持ちを強く持っており、スタッフ一同で取り組んだ結果、実際にたくさんの子どもたちが訪れてくれたのだと思います。
マスコミにも取り上げられて知名度も上がったお陰で、最近は、近県の富山や福井からもたくさんの中学生、高校生が当館を訪れるようになりました。別に私が来いと言ったわけではなく、来館者の期待以上の価値を提供してきたことで、地元の顔として地域に受け入れられたのです。金沢21世紀美術館というブランドが確立し、ようやく北陸の地に定着してきたのだと日々感じています。
いろいろな方から、「どうしてこれだけの子どもたちを美術館に連れて来られたのか」とよく尋ねられます。それは最初のオープン時に、金沢市に住む小中学生全員を招待したプログラム「ミュージアムクルーズ」がもとになっています。そして、市内の小学生全員に「もう1回券」という期限付きの券を2枚ずつ差し上げたところ、約7000枚のチケットが返ってきました。子どもたちにとって自分のチケットを持つ喜びは、大変大きいのだと思います。ちょっとしたことなのですが、子どもの気持ちを考えてあげれば、7000人もの子どもたちがもう一度、美術館に来てくれるのです。小さい子どもたちが一人で来ることはありませんから、必ず家族やお友だちを一緒に連れて来てくれます。
子どもたちが親を連れて戻ってくれて、一緒に来た親たちは口コミで、多くの人に「あの美術館に行くと楽しいよ」「子どもを連れていくとすごく楽しいよ」という言葉を伝えてくれるのです。ブームと言ったら大袈裟かもしれませんが、金沢の子どもたちは「こんなに楽しい場所を見つけた」と思っています。何も金沢の真似をする必要はありませんが、日本中のミュージアムが子どもたちに感動をあたえることに本気で取り組み、学芸員たちも本物を見せようという気持ちを持てば、必ずたくさんの子どもがミュージアムを訪れると思います。
これまでは、ほとんどのミュージアムは大人だけをターゲットにしていましたから、親が子どもを連れていっても、子どもたちは自分の居場所がないと感じていたのではないでしょうか。ところが当館に来れば、自分と同じ年齢、同じ背丈の子どもたちがたくさんいるので、それだけで子どもは安心感を持ち、自分の居場所を発見できるのだと思います。子どもがたくさんいる美術館をつくれば、自然に子どもたちは集まって来るのです。
ご存知のように、当館は金沢の市街地の中心、兼六園の入口に位置しています。元金沢大学付属幼小中学校の跡地約1万坪を市が国から購入し、妹島和世さんと西沢立衛さんの建築ユニットSANAAに美術館を設計していただきました。空撮写真を見ると、美術館の外観はまるで宇宙船が街の真ん中に舞い降りてきたような姿をしています。周囲は全面ガラス張りですから、特に夜になると館内の光が外に漏れて、本当に宇宙船が地上に降り立ったような雰囲気になります。
開館前から、当館は市民の方が芸術に気軽に親しんでいただけるよう、さまざまなプレ・イベントを開催してきました。また、音楽や建築、デザイン、ファッションなど、美術以外の分野の展示会やイベントも行っています。昨年10月に「ライフ&ファッション金沢ウィーク」というファッションショーを当館で開催し、イタリアと県内のデザイナー5名に参加いただきました。モデルは金沢市内をはじめ、県内外から多くの募集をいただいたなかから選出し、プロのモデルのレッスンも受け、市民ギャラリーの周りをさまざまな衣装をまとって歩いていただきました。また、BGMにはジャズバンドを呼びました。ガラス張りの美術館ですから外からなかの様子も見えますし、1600名ものギャラリーで賑わい、非常に楽しいファッションショーになりました。このようなイベントを毎年行っていきたいと思っています。
当館では、展示ゾーン以外のデザインギャラリーやライブラリー、カフェレストラン、ショップなどは基本的に入場無料ですから、展覧会を見にいらっしゃるお客様以外の方にも気楽に美術館を利用していただけます。実際、無料ゾーンを利用したお客様のうち平均して約30%の方がお金を支払い、展覧会を鑑賞しています。
プロジェクト工房では、国内外の一流の作家を招き、実際に金沢に住んで作品を制作していただきます。訪れた人は、制作する様子を見ることができます。現在は、国際的に活躍する奈良美智さんが、約半年の予定で金沢に滞在して作品を制作しており、そのプロセスも見学することができます。無料ゾーンにある「タレルの部屋」は夜10時まで開いていますから、デートなどに利用される若い方も多いようです。また、コンサートなどのイベントもしばしば開催しています。
ミュージアムは、常に何か次の企画を考えなければいけません。一番良い時が実は一番危険で、良い時に次のことを考えないと手遅れになるのです。そこで考えたのが、直島の「地中美術館」と東京の「森美術館」、金沢21世紀美術館をリンクして、3館を周れば特別なグッズを差し上げるというプログラムです。昨年11月末までに、3館合わせて770ぐらいのグッズが出ているようです。東京、金沢、直島は距離的に非常に離れていますが、本当にたくさんの人が3館を訪れているということです。この結果からも、日本人がいかに美術が好きな人が多いかということがよくわかると思います。
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| 緑の橋と雲を測る男 |
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| 光庭とスイミングプール |
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| 地下から見るスイミングプール |
子どもたちに人気がある理由は、有名なアーティストがつくった三輪車や「ピンポンド・テーブル」などのように、館内で実際に手でふれて、体験できる作品がたくさんあるからです。なかでも、アルゼンチンのレアンドロ・エルリッヒという作家の「スイミングプール」は一番人気です。子どもたちは、本物の作家の本物の作品にふれることで、「現代美術はこんなにも楽しいのだ」ととても良い印象を持つのだと思います。
「子どもに美術がわかるわけがない」「子どもは非常に危険だ」「作品を壊されるかもしれない」という心配の声もありますが、驚くことに金沢の小中学生4万人全員を連れて来ても作品を傷つけられたことは一度もありません。当館は、主に現代アート作品を展示していて作品が天井からぶら下がっていたりしますから、作品にさわろうと思えばいつでもさわれますが、引っ張られたり、壊されたことは1回もないのです。子どもを信じて、子どもにアートに対する尊敬の心をしっかりと教えていけば、子どもは美術作品に心から感動します。私は、当館を訪れた子どもたちは、将来、必ず自分の子どもを連れて、美術館へ戻ってきてくれると信じています。自分が子どもの頃に受けた感動を、子どもにも体験させたいという想いを必ず持つと思います。
金沢21世紀美術館を訪れた金沢の子どもたちが、20年後に弁護士になるのか、それともお医者さんや起業家、スポーツ選手になるのかはわかりません。しかし、素晴らしい感性を持ち、社会に貢献できる子どもたちが金沢からたくさん生まれることを期待しています。アートは子どもたちの感性や創造力を養ううえで、非常に大きな影響力を持っています。受験や塾に追われる生活だけではなく、子どもたちにアートにふれる時間をあたえることが大切だと思います。
私は長いあいだ米国に住んでいて、私の子どもも米国で育っていますから、小さい頃から授業で自然にミュージアムに行っています。米国の学校では、語学や歴史の授業など、あらゆる機会にミュージアムを訪れ、美術品を通してその科目について学習するのです。例えば、私の息子が中学生の時には、フランス語の授業で「シカゴ美術館」に行き、印象派の絵を見て学校に戻り、美術館で見た1枚の印象派の絵についてフランス語で語り合い、お昼はフランス料理をいただきました。
そうした生活環境に恵まれるのは、一部の子どもたちだけかもしれません。しかし、子どもにとって授業で教わることはとても良い経験で、将来いろいろな面で役に立ちます。日本でも、子どもたちがもっとミュージアムへ出かけ、美術品を通して各国の文化や歴史を知る機会が増えれば、教科書で習うだけの知識とは深みや奥行きも違ってきますし、将来的には、地域の活性化や本当の意味での国際交流にもつながるのだと思います。現在、国内では教育問題についてもいろいろな取り組みが模索されていますが、ただ知識を詰め込むだけの勉強をさせるのではなく、子どもたちの創造力を豊かにするような教育が授業のなかに取り込まれることを期待しています。