【Cultivate Vol28 特集◎21世紀、ミュージアム・タウンの創造と展望】より

米国におけるメンバーシップ 〜スミソニアンの事例より〜

スミソニアン協会フリーア美術館、サックラー美術館 マーケティング・支援開発スペシャリスト 石田和晴 プロフィール


メンバーシップ・プログラムで安定した財源を確保する

 米国のミュージアムのメンバーシップ・プログラムについて、スミソニアンの事例を取り上げながら、マーケティングの観点から3つの重要な点についてお話しします。ひとつはメンバーシップ・プログラム運営のメリットについて、2つ目は寄付特典重視型メンバーシップの構築の必要性について、最後に顧客データベースの活用と顧客深耕についてご紹介します。

 メンバーシップの運営は、手間がかかるわりには実入りが少ないという指摘があります。また、下手をすると赤字にもなりかねません。それにもかかわらず、米国では数多くのミュージアムがメンバーシップ・プログラムを運営しています。赤字になるリスクがあっても、非常に多くのメリットがあるからです。

 メンバーシップ運営の主なメリットをあげると、まず、メンバーシップ・プログラムの運営が成功して余剰金が出た場合には、財源の多様化につながります。また、米国の場合、そうした資金は「Unrestricted Fund(使途制限なしの運営資金)」と呼ばれ、ミュージアム運営の自由度を高める資金源として非常に重宝されています。米国では金額の大きい寄付を集める場合、寄付者の意向をくんで、例えば「この寄付は教育プログラムに使用します」と寄付金の使用について制限を設けることが多く、使途制限のない寄付をいかに集めるかがミュージアムの重要な経営課題なのです。

 次は、メンバーシップ更新による寄付の定期化です。米国では会費は寄付の一部と考えられており、毎年メンバーシップ更新のお願いをすることで、自然な形で寄付を定期化できるようになります。メンバーシップにはミュージアム利用の際に便利な特典がついており、特典を通じてミュージアム活動へのメンバーの参加を促し、ミュージアムと支援者の関係をより身近にします。また、メンバーが特典を通じて、ミュージアムに多く足を運べば、レストランやショップを利用する回数も増え、ミュージアムの収入にもつながります。

 こうしたメンバーとの接点を通じて、「Customer Cultivation(顧客深耕)」による増収機会が生まれることもメンバーシップ運営のメリットです。例えば、米国では通常年末に「Annual Appeal」、つまりメンバーに会費以外の寄付のお願いをすることがあり、なかには年会費以上の寄付をするメンバーもいるのです。単なるメンバーシップの利用だけでなく、メンバーとより広い関係づくりを行うことでメンバーシップ・プログラム運営のメリットはさらに大きくなります。

 スミソニアンには、本部が運営するメンバーシップと各ユニットのミュージアムが運営するメンバーシップがあります。スミソニアンで最大規模のメンバーシップが「National Associate Membership」で、会員数は200万人以上、会費は29ドルで、雑誌購読やショップでの割引などの特典が中心です。「Resident Associate Membership」は地域住民のためのメンバーシップで、会員数は7万人、会費は35ドルで、主な特典は講演やワークショップ参加の割引などです。「Contributing Membership」は、より高額のカテゴリーで、会員数は約9万人、年会費は75ドルから1500ドルまで7つのカテゴリーがあります。

プレステージの高い価値を提供しメンバーを寄付者へと誘導する

 私が勤める「フリーア美術館」「サックラー美術館」では、「Friends」と呼ばれるメンバーシップを運営しています。会員数は150人で、年会費は1200ドルから1万ドルまでと、非常に高額なカテゴリーのみのメンバーシップです。通常、米国のメンバーシップには複数のカテゴリーが用意され、特典の数が増えるほど会費は高くなりますが、Friends も最も年会費が低いカテゴリーが1200ドルで、高額なカテゴリーになるにつれて特典数が増えていきます。主な特典は、講演などのイベントの優先的な予約受付、メンバーのみを対象とする国内・海外旅行、学芸員による舞台裏ツアーなどです。また、年に一度、メンバーのための晩餐会も開催され、ワシントンDC駐在大使を含む外交官や米国政府、議会関係者なども招待され、メンバーに対する特別な晩餐会としての演出がなされます。

 米国のメンバーシップでは、会員に会費の一部税控除が認められています。メンバーに提供される特典で、実際に費用がかかる部分や一般の人が入手できるものは、その価格が税控除として認められません。会費から控除が認められない分を差し引いた部分を寄付とみなし、メンバーが確定申告をする際には所得控除の対象になります。通常、米国のメンバーシップでは年会費が上がるほど控除割合が増えますが、高額のメンバーシップでは、晩餐会のようなよりプレステージの高い特典、金銭には代えがたい価値のある特典を提供しています。

 一般的なミュージアム・メンバーシップでもFriends と同じ構図が見られ、メンバーには利用者と寄付者の2つの性格が見られます。利用者としてメンバーに提供される特典には、通常、入場料の免除、ショップやレストランでの割引、ニュースレターの送付などがあり、こうした特典提供によるミュージアム側の負担は少なくありません。いかにプレステージの高いメンバー特典をつくりだし、メンバーにより高額なカテゴリーにアップグレードしてもらうかが、米国のメンバーシップ運営における成否の大きなポイントなのです。

データベースを有効活用しメンバーとの関係づくりを強化する

 メンバーシップ運営の際には、メンバー・支援者との積極的な関係づくりが重要ですが、これをシステマティックに行うには寄付者・メンバーの情報データベースの活用が必要です。イベントやその他の活動参加実績、寄付実績、興味のある分野など、数多くのメンバー情報を収集し、必要に応じて利用することがメンバーシップ運営の成功の鍵なのです。米国では、メンバーを含む支援者情報データベースが非常に発達しており、詳細な情報を体系的に記録、利用できる体制が整っています。高額のメンバーシップになるほど、メンバー個々の好みに合わせた組織としてのきめ細かい対応が求められます。メンバーにより多くの支援をお願いする際には、蓄積されたデータベース情報が、具体的なアプローチの方法を決定する際などに大きな助けになります。

 メンバーとの関係づくりを広げ、深めることで、メンバーシップ運営のメリットはより大きくなります。米国では、寄付者としての性格が強いプレステージの高いカテゴリーを用意し、いかに多くのメンバーをより高額なカテゴリーへ誘導するかがメンバーシップ運営の成功につながります。戦略的に関係を発展させるためにも、データベースを有効活用し、多くの支援をしてくれる寄付者へとメンバーを誘導することが重要なのです。



ページトップへ

© 2000-2004 Institute of Cultural Environments